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米国株の調整は必ずやってくる。2020年最後の押し目買い好機を逃すな=江守哲

米国株の過熱感は最高潮である。近いうちに一定の調整が入るだろう。今週から来週が日柄的には重要である。そこで年内最後の押し目買いを実行することになりそうである。できれば10%を超える調整が欲しいところ。日本株の戦略と合わせて今後の展望を解説したい。(『江守哲の「投資の哲人」〜ヘッジファンド投資戦略のすべて』江守哲)

本記事は『江守哲の「投資の哲人」〜ヘッジファンド投資戦略のすべて』2020年12月7日号の一部抜粋です。全文にご興味をお持ちの方はぜひこの機会に、今月分すべて無料のお試し購読をどうぞ。

プロフィール:江守哲(えもり てつ)
エモリファンドマネジメント株式会社代表取締役。慶應義塾大学商学部卒業。住友商事、英国住友商事(ロンドン駐在)、外資系企業、三井物産子会社、投資顧問などを経て会社設立。「日本で最初のコモディティ・ストラテジスト」。商社・外資系企業時代は30カ国を訪問し、ビジネスを展開。投資顧問でヘッジファンド運用を行ったあと、会社設立。現在は株式・為替・コモディティにて資金運用を行う一方、メルマガを通じた投資情報・運用戦略の発信、セミナー講師、テレビ出演、各種寄稿などを行っている。

12月中旬に大きな調整か

米国株は依然として強い。この調子で上げていくのか、非常に違和感があるのだが、それでも買いが入っている。ワクチン相場はまだ続いているようである。そのようなこともあり、VIXが低下している。いよいよ楽観的な動きも極限に近付き始めているようである。

12月は基本的に強い月だが、中旬に一度大きく調整する傾向がある。その傾向に乗るとすれば、今週から来週あたりに5%から10%程度の下げがあってもまったくおかしくない。この点は、いまの段階で明確に指摘しておきたい(※編注:原稿執筆時点2020年12月7日)。

NAAIM INDEXは12月2日時点で103.17ポイントに低下したが、依然としてレバレッジをかけた状態である100ポイントを超えている。投資家は依然としてこの2年間でもっともリスクを取って投資している状態が続いている。また、FEAR & GREED INDEXが再び90ポイントにまで上昇している。

これらのような、株価が過熱している可能性を示す数値が示されたからと知って、株価がすぐに調整するわけではない。しかし、いずれそのような場面は早晩到来する。これらの事実から目を背けず、株価の急落があっても仕方がないことを理解したうえで、現在の市場を見ておくことが肝要である。

いずれにしても、米国株の過熱感は最高潮である。

近いうちに一定の調整が入るだろう。今週から来週が日柄的には重要である。そこで年内最後の押し目買いを実行することになりそうである。できれば10%を超える調整が欲しいところである。

ファンドの資金フロー:リスク志向が高まる

バンク・オブ・アメリカ(BOFA)によると、2日までの1週間で株式ファンドに97億ドルが流入した。一方で、安全資産とされる金のファンドからは過去3週間で90億ドルが流出。新型コロナウイルスのワクチン開発の進展を受け、21年は各国経済が正常な状態に近付くとの期待からリスク志向が高まった。

新型コロナワクチンにより来年は経済が迅速に回復するとの期待から株価は11月に月間ベースで過去最大の伸びを記録。12月は過去最高値を付ける動きにある。BOFAは世界のGDPが21年に5.4%増と、約5年ぶりの大幅な伸びとなると試算する。

株式ファンドへの流入額は過去4週間で1,150億ドルと、過去最高水準に達した。

BOFAは過去10カ月間の特徴について「史上最速の株価急落、史上最大の政策混乱、史上最大の米国株の上昇が見られた」としている。大規模な政府支出や中銀による景気刺激策を背景に、過去10年間低迷してきた物価が上昇し始めるとの見方も出ている。インフレ指数連動債(TIPS)ファンドには2日までの週に20億ドルが流入し、週間ベースで過去2番目に多かった。

一方、BOFAはドル指数が90を下回れば、ドルが急落し、米国債利回りの急騰やビットコインの投機的な需要増加につながる可能性があると指摘した。ドル指数4日時点で90.567。ドルが夏以降に大幅下落し、一方でビットコインが急上昇している。ビットコインは年初来約170%上昇し、過去最高値水準にある。

Next: 来年には企業活動も正常化?投資家たちは楽観に傾いている



S&P500の市場予想

リフィニティブによると、アナリストは今年のS&P500構成企業の利益が新型コロナ禍で15%超減少するが、来年は23%増加に転じると見込んでいる。向こう4四半期の利益に基づくPERは現在23倍である。今年6月に記録した約20年ぶりの高倍率の25倍からわずかに下げたが、依然として高水準である。

リフィニティブのデータによると長期平均は約15倍で、現在はこれを大きく上回る。企業利益面の裏付けは弱いにもかかわらず、米国株は今年3月以降に急上昇し、PERも大きく上昇している。実際、全米での新型コロナの感染再確認や、来年の企業利益見通しの若干の低下にもかかわらず、米国株は上昇している。リフィニティブのデータによると、S&P500企業の来年の利益予想は11月27日時点で22.5%増と、10月1日時点の28%増から弱まっている。

リフィニティブのデータに基づいてS&P500企業全体の97%を分析したところ、第3四半期はわずか6.5%の減益となり、10月1日時点の予想21%減から大きく改善した。第4四半期の見通しは11%減益で、10月1日時点の13.6%減から上方修正されている。

ただし、新型コロナワクチンの本格接種のタイミングに左右される面も大きいだろう。どれだけ企業活動が素早く正常化するかが、これにかかっている。来年に最も利益が前年比で伸びるセクターは景気敏感株とみられている。リフィニティブのデータによると、増益率はエネルギーが600%近く、工業が79%と予想されている。

また、米大統領選で勝利したバイデン氏の政策が市場寄りになるかを投資家は見極めようとしている。バイデン氏は増税の可能性を示しており、そうなれば企業利益の伸びは抑制されるかもしれない。

ロイターが25日公表した調査によると、ストラテジストの大半は1年以内に企業利益がコロナ前に戻ると予想したが、増税になれば回復にもっと時間がかかるとの見方もある。

ロイターの11月「国際分散投資」調査の結果

ロイターが実施した11月の国際分散投資調査では、株式の推奨比率が大幅上昇に転じ、2月以来の高水準となった。過半数の回答者が、強気の株式相場は6カ月以上続くとの見方を示した。

10月の下げ相場から一転、11月には世界中の株式市場が高値を更新。MSCI世界株指数は13%近く上昇し、これまでで最も大幅な上昇率を記録する基調にある。新型コロナウイルスワクチン開発への期待感やドル安、低金利による資本市場への資金流入予想が背景にある。

こうした株高基調を受け、日本、欧州、英国、米国のファンドマネージャーや最高投資責任者(CIO)33人を対象に11月12─30日に実施した調査では、株式推奨比率が劇的に上昇。他の資産の推奨比率はおしなべて低下した。

グローバル・バランス・モデル・ポートフォリオの株式推奨比率は平均46.7%となり、10月の41.4%から5%ポイント超上昇。前月比の上昇幅は統計開始以来10年間で最大となった。

債券推奨比率は平均42.1%となり、10月の45.5%から低下。2月以来の低水準となった。現金や不動産、オルタナティブ投資も低下した。こうした動きからは、ファンドマネージャーらが慎重なアプローチから脱却し始めたことが見て取れる。追加質問に回答した19人のファンドマネージャーらによると、株式への推奨は最近の新型コロナワクチン開発の進展に基づくものであり、回答者の約80%が株高は少なくとも6カ月は継続するとの見通しを示した。

企業収益に関しては、株式ストラテジストが年内にはコロナ感染拡大前の水準に戻るとの見方を示す一方、ファンドマネージャー19人の約60%は、平常復帰に少なくとも1年かかると予想している。

Next: 上昇サイクルは17年間で構成、次のピークは?/日本株の戦略



米国株の長期サイクルを再確認

米国株の長期的なサイクルを確認しておきたい。これは今後の株式投資を実行していく上で、きわめて重要なポイントであり、もっとも理解しておくべきポイントであると考えている。

このような大局的な視点を持つことで、目先の値動きに振り回されずに済むだろう。

米国株にはおおむね33年から34年の上昇サイクルがある。世界恐慌後の1932年から1966年の34年間、1974年から2007年の33年間(2008年としてもよい、その場合には34年間)、そして今回の2009年以降である。

33年間上昇すれば2042年、34年間上昇すれば2043年までの上昇になる。このころは、インドが人口動態から経済拡大がピークを付けるタイミングであるといえる。34年のサイクルでは、17年のサイクルを2回に分けて考える必要がある。

過去の米国株の上昇サイクルは、17年間で構成されている。これを2回やると大きな上昇相場になる。いまはその17年サイクルの1回目である。これは2009年後の2026年ごろに終わることになる。もしかすると、もう少し早くなる可能性もある。

ここは、後述するように、金相場が2026年から27年にピークをつけることになるため、1回目の株価のピーク後の調整時に金相場がピークをつけに行くことになる。金相場はここでピークアウトする。

その後、株価が調整を経て34年サイクルの後半に当たる2回目の上昇サイクルに入り、2043年までの上昇することになる。このような大局的な値動きのパターンを頭に入れておけば、何も慌てることはない。下げが来れば買えばよいとの判断になることは自明である。それが、私が毎回繰り返し紹介している「長期ポートフォリオ戦略」である。

大きく下げた時に買わないと、株式投資は収益が出ない。それも大きな下げである。そして、資産を積み上げていくのである。今回のコロナ・ショックもそうであり、その前のリーマン・ショックもそうである。いずれ近いうちに小さな調整は来るだろう。そのような下げも利用しながら対処するのである。

そのためには、現金が必要である。だからこそ、「現金を常に金融資産の3割を保有せよ」と言っているわけである。現金さえ保有しておけば、最後は助かる。そして、株が上がりすぎになれば、その一部を売却して現金化しておくのである。そうすれば、余裕をもって対処できるはずである。

米国株は常に上昇すると言っている向きもいるが、それは長期的には正しいが、そこにはポートフォリオ戦略が不可欠である。強気しか言わないのは、それは不親切であり、暴論であろう。

ヘッジファンドで自分の資金を入れていないファンドマネージャーの無責任な発言にも要注意である。

日本株の投資戦略の考え方

日経平均先物は夜間取引で上昇しており、堅調さを維持している。米国株がなかなか下げず、日本株も調整の機会を失っているように見える。とはいえ、2万7,000円も超えられず、高値を買う動きもない。下げれば買いたい投資家は多いようだが、上値を買い上げる動きはすでに一巡した感がある(※編注:原稿執筆時点2020年12月7日)。

空売り筋の買い戻し余地はあるのだろうが、下げを待っている状態である可能性もある。そうであれば、2万7,000円を超えると一気に買い戻しが入り、500円程度の急伸になる可能性もある。そのあたりも念頭に置きつつ、調整があるのかを見極めたいところである。

いまの株価は、株価指標では説明できない。だからこそ、投資家の一部が空売りをして担がれているともいえる。しかし、買い戻しが終われば下げるのが相場の常である。

一方、今回の強気相場に見える動きを理由に、「今回は違う」「日本株は歴史的上昇に入った」との声も聞かれる。そうかもしれないが、それは今の段階で言い切り、結果として当たっても別段褒められるものではない。

これまで株価が低迷しすぎていただけである。日本株はおかしな構造になっており、挙句の果てに日銀が株価を支えることにした。不思議な市場だが、日銀が買い支えているからこそ下げない、上げていく相場になっている点は否定できない。

この点を理解しておけば、日本株は下げにくくなっていることだけは確かである。これに逆らっても仕方がない。かといって、これが日本株の持続的な上昇の理由にはならないだろう。

Next: 日本株「本格上昇」の条件は?



日本株「本格上昇」の条件は?

最終的には日本企業の成長力次第である。日本株を反映する企業の構造変化がなければ、米国のような大きな上昇にはならない。人口の問題もある。

これらの問題を解決できてこそ、日本株の本格的な上昇が実現するはずである。

日経平均株価は29年ぶりの高値と連日のように報じられている。しかし、重要なのはTOPIXである。これが1,750ポイントを明確に超え、さらにこの水準を維持し、上値を切り上げていけるかがポイントである。そうなれば、日本株の上昇は本物である。

TOPIX 日足(SBI証券提供)

NT倍率が高くなりすぎているが、これも日本株が全体的に上げていないことを示している。これも調整される中で株価全体が上昇すれば、真の意味で強気になってもよいだろう。

とはいえ、最終的には市場がどのように考えるかである。買う投資家が増えれば、株価は上昇する。今後の日本株への期待が高まれば、その流れに乗ればよいだけである。

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マーケット・ヴューポイント~「米国株の調整は必ずやってくる」

米国市場~米国株の短期的な過熱感は変わらず

欧州・中国市場~欧州経済に減退リスク、中国は着々と戦略を進行

日本市場~日本株は高値圏での推移が継続

為替市場~ドル安傾向が継続

コモディティ市場~金は反発、銅と原油は堅調さを維持

今週の「ポジショントーク」~米国株の過熱感に引き続き注意する

ベースボール・パーク~「週末はジムで運動と野球」

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本記事は『江守哲の「投資の哲人」〜ヘッジファンド投資戦略のすべて』2020年12月7日号の一部抜粋です。全文にご興味をお持ちの方は、バックナンバー含め今月すべて無料のお試し購読をどうぞ。本記事で割愛した米国市場日本市場為替原油ほか各市場の詳細な分析もすぐ読めます。

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image by:Nuno21 / Shutterstock.com

江守哲の「投資の哲人」〜ヘッジファンド投資戦略のすべて』(2020年12月7日号)より一部抜粋
※タイトル・見出しはMONEY VOICE編集部による

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株式・為替・コモディティなどの独自の市場分析を踏まえ、常識・定説とは異なる投資戦略の考え方を読者と共有したいと思います。グローバル投資家やヘッジファンドの投資戦略の構築プロセスなどについてもお話します。さらに商社出身でコモディティの現物取引にも従事していた経験や、幅広い人脈から、面白いネタや裏話もご披露します。またマーケット関連だけでなく、野球を中心にスポーツネタやマーケットと野球・スポーツの共通性などについても触れてみたいと思います。

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