中国のサイバー攻撃に最も悩んでいるのが習近平というパラドックス

 

13年5月、米国の国防総省が「国家が支援する産業スパイが増加している」とのレポートを発表し、14年5月、太陽光パネルなどを手掛ける米企業の機密情報を盗んだとして、中国の軍関係者ら訴追されました。

15年5月、アメリカを代表する半導体メーカーのアバゴ・テクノロジーは、アバゴに勤務経験のある天津大学の張浩教授ら6名によって産業スパイの被害にあいました。張教授らは、アバゴから盗んだ無線通信技術を使った製品生産、販売する会社を天津大学と設立し、その製品を企業や軍に販売する契約を結んだと言われています。

こうした事例を踏まえて、アメリカ側が規制を強化したり中国を名指しで非難することが増えるたびに、中国も国内における外国人への規制を強化し、スパイをでっち上げたりしています。習近平としては、そうでもして体裁を整えないと体面が保てないという裏事情があるのかもしれませんが、他国にとってみれば迷惑このうえない話です。

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このようにサイバー攻撃問題で、米中関係がぎくしゃくする一方で、習近平はイギリスに急接近してヨーロッパに手を伸ばそうとしています。習近平は、10月19日からイギリスを公式訪問していますが、訪英前にはキャメロン首相の単独インタビュー映像を繰り返しテレビで流し、中英の蜜月を国内に印象付けています。

これはもちろん、習近平がぶちあげた「新シルクロード構想」(中国名「一帯一路」)がうまく行っていることを演出するためです。米中首脳会談も失敗に終わり、経済もボロボロで四面楚歌の習近平としては、ここで名誉挽回するしかないからです。

キャメロン首相もインタビューでは中国を褒めちぎっており、中国との接近大歓迎だとしています。EU中では真っ先にAIIBへの参加を表明し、中国の構想である「一帯一路」の終点をイギリスと想定していることも、まんざらではない様子のイギリスは、アメリカのように中国と対立はせずおだてながらうまく立ち回り、美味しいところだけを持っていきたいというのが本音でしょう。

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しかし、イギリスは中国のことを知らなさすぎます。アメリカにしても、できることなら表向きだけでも中国と握手して協力体制を持ちたいと思っているでしょうが、サイバー攻撃による実害や南シナ海での中国の横暴には目に余るものがあり、黙ってはいられない状況だったのです。

中国は、アメリカ民間企業から機密情報を盗んでは、国に持ち帰り再現して軍や国営企業で模倣し活用するということを繰り返してきました。そうやって自国企業を富ませてきたわけですが、その手法がこんどは習近平を追い詰める手段となっています。

一方のアメリカは、これにより雇用の機会を奪われ、経済的打撃も受けました。それなのに、「中国はサイバー攻撃とは無関係」としらっと言われているのですから、腹が立たないほうがおかしいでしょう。

いまや、アメリカは中国から受ける恩恵よりも被害のほうが大きいため、習近平が訪米中にボーイング社の飛行機を300機購入すると言っても、それほどアメリカ人の心をつかむことができませんでした。

また、普遍的価値を共有できない中国に対する批判が大きいのもアメリカです。人権無視の共産主義に対して、アメリカは異常なほどアレルギー反応を示します。

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