【故・中村勘三郎】過去400人もインタビューした男が、今でも忘れられないたった一言

KPG Payless2/ShutterstockKPG Payless2/Shutterstock
 

歌舞伎界に新しい波を起こし続けた中村勘三郎さんが亡くなってから2年余り。そんな“革命児”を10年前にインタビューした経験を持つ全米最多発部数の邦字新聞「WEEKLY Biz」の発行人・高橋克明さんが、印象深かったというその様子を語っています。

インタビューの舞台裏 -Bout.7- 中村勘三郎

『NEW YORK 摩天楼便り-マンハッタンの最前線から-by 高橋克明』 Vol.009より一部抜粋

(故)中村勘三郎さんにはインタビューさせて頂いたのは、もう10年前

いまでは恒例になっている平成中村座のニューヨーク公演、最初の年でした。平成中村座のニューヨーク公演はあのNewYork Times が(当時上映中の)「スパイダーマン2」より面白い!と絶賛し、特設会場前には(着グルミの)スパイダーマン(のファン)が偵察に来た、というエピソードを残します。それくらい当初から、中村座も、そして勘三郎さんもニューヨーカーに愛されていました。

ゲネプロと初日と千秋楽にご招待いただき、その3回とも遠慮せずに観劇させていただいたのは、あらゆるお世辞を除き、面白すぎたから。「歌舞伎ってこんな面白いものだったの!?」それ以来、日本出張が入れば、時間が許す限り銀座の歌舞伎座に足を運ぶようになりました。

このシゴトをしていると、よく「過去、一番面白かった舞台(コンサート、イベント)は何だった?」と聞かれます。そのつど「2007年の平成中村座」と答えるようにしています。とても印象に残った夏でした。

「(ニューヨークで)うまいラーメン屋知ってる?」インタビュー前、緊張していた僕と、その場の空気の両方を開口一発でガラっと変えてくれた記憶があります。テレビでもラジオでもない紙媒体である幣紙に「こんな具合でさ、」と本イキで、英語で、歌舞伎の見栄を、目の前で切ってもくれました。

一番印象に残ったのは、エレキギターを舞台に取り入れたことにより、当時の歌舞伎界では賛否両論だったことに話を振ったときのこと。たった一言、「江戸時代にエレキがあったら、使ってるっつーの!」と笑い飛ばされました。そのセリフがとても、とても、印象に残っています。どんなに由緒正しきものであれ、自身の圧倒的な努力とそこから来る自信の前に、それらが自分のプライドより上位概念にいく事はない。伝統ある流れを変えることができる実力。本物の天才なんだな、と、その瞬間、鳥肌が立ったことを鮮明に覚えています。予定時間を大幅に超え、1時間以上熱く語っていただきました。

ただ、連載初期のインタビュー記事は、今読み直すと、我ながら、あまりにもヒドく(笑)だからこそ、いつかもう一度、インタビューし直したかったと心から思います。

千秋楽、観客のスタンディングオベーションに舞台上から手を振る勘三郎さんの目には涙が浮かんでいました。ありがとう、ありがとう と声にならない声で応え、舞台袖にはける途中、最前列にいた僕に気がついた勘三郎さんは口パクで「おつかれさん!」と云ってくれました。

そのことを話すと、うちのスタッフにも「気のせいだっつーの!“イチ地元紙のインタビュアーのニイチャン”のことなんて覚えてくれてるはずはないですよ」と片付けられました。「ぜぇぇっっったい!云ってくれたんだって!前日に1時間話したんだぞ!今度、勘三郎さんに会う機会があったら、確かめてやる!」と云って10年経ちました(笑)まして、それを確かめることもなく、勘三郎さんは逝ってしまいました。

でも、思うのです。

あの勘三郎さんだったら、“イチ地元紙のインタビュアーのニイチャン”のことすら、ひょっとして覚えてくれている可能性があったのではないかな、と。

戦後最大の天才”とのインタビューは、大切な思い出です。

『NEW YORK 摩天楼便り-マンハッタンの最前線から-by 高橋克明』 Vol.009より一部抜粋

【Vol.009の目次】
1.今日のニューヨーク  Vol.9 「日本出張 その(6)」
─最前線で日々NYを取材している筆者の感じた、今日の摩天楼、今日出会ったニューヨーカーetc. 思うままに綴るコラム。

2.NYの雑種犬、みりんの大冒険 -第7章-
─フェイスブックやブログ上では筆者以上の人気を誇る、うちの雑種犬“みりん”のNY冒険綺譚。

3.最新ニューヨーク事情 第7回 「バレンタインデー@ニューヨーク」
─世界の中心では今何が起っているのか。日々、新しいムーブメントの起こるこの街から、有益な最新情報をお届けします。

4.NEW YORK の一枚 Vol.7
─ 弊紙カメラマンが撮った今日のニューヨーク

5.インタビューの舞台裏 -Bout.7- 中村勘三郎
─過去400人の著名人に取材した際の舞台裏。本記事に書けなかった「あの人」の裏話。

6.Q&A

『NEW YORK 摩天楼便り-マンハッタンの最前線から-by 高橋克明』

著者/高橋克明
全米No.1邦字紙「WEEKLY Biz」CEO 兼発行人。同時にプロインタビュアーとしてハリウッドスターをはじめ400人のインタビュー記事を世に出す。メルマガでは毎週エキサイティングなNY生活やインタビューのウラ話などほかでは記事にできないイシューを届けてくれる
≪無料サンプルはこちら≫

 

print
いま読まれてます

  • 【故・中村勘三郎】過去400人もインタビューした男が、今でも忘れられないたった一言
    この記事が気に入ったら
    いいね!しよう
    MAG2 NEWSの最新情報をお届け