「パリ同時多発テロ」で世界の敵対関係はどう変わるのか?

 

「パリ同時多発テロ」で何が変わる?

次に、「パリ同時多発テロ」で何が変わるかを考えてみましょう。

・フランス

まず、テロが起こったフランス。オランドさんは、「イスラム国」に逆襲せざるを得ないでしょう。つまり、いままでとは違って、真剣に「イスラム国」を空爆しなければならない。ここでやめたら「イスラム国に屈した」ことになります。

・欧州全般

欧州はどうでしょうか? 欧州は、今回のテロを、「難民受け入れ拒否」の口実として使うでしょう。というのは、テロリストの中に、「難民が含まれていた」という報道があるからです。

朝日新聞デジタル11月15日から。

検察は会見で、サッカー場で見つかった自爆テロの容疑者1人の遺体の近くから、シリアの旅券(パスポート)が見つかったと述べた。旅券の人物はシリアで1990年9月に生まれ、現在は25歳になる。だが容疑者が旅券の所有者本人かどうかは不明。

 

ギリシャ政府は会見に先立ち、この旅券の所有者が10月3日、トルコ国境に近いギリシャ東部レロス島で難民として手続きをとった記録があることを明らかにした。ギリシャは指紋などのデータをフランスに送った。

実際、「難民の中にイスラム国メンバーが混ざっていること」は大問題です。「便衣兵」(=敵を欺くために私服を来た軍人)を大量に入れているようなもの。

というわけで、欧州が今回のテロで、「難民を規制しよう」となるのは、当然の流れですね(難民が欧州に来なくてもいいよう、シリアの安定化が急がれます)。

・ロシア

あまりよくない言い方ですが、事実として、「パリ同時テロ」で楽になるのがプーチン・ロシアです。

皆さん思い出してください。「クリミア併合」で、プーチンが「世界の孤児」なったのは、1年8か月前です。今、「ウクライナ問題」を思い出す人は、ほとんどいません。

ロシアのシリア空爆は、当初「反アサド派を空爆している!」と非難されました。しかし、批判の声はどんどん小さくなっています

「パリ同時多発テロ」を受けて、プーチンはこんな声明を出しました。

◇ロシア

 

ロシアのプーチン大統領は14日、オランド仏大統領に弔意の電報を送った露大統領府によると、プーチン氏は「野蛮なテロ」と非難し「この悪との戦いには国際社会の真の協力が必要なのは明らかだ」と訴えた。シリア空爆を巡り、ロシアが欧米諸国と対立していることなどを念頭に置いた発言とみられる。 

毎日新聞11月15日

いつの間にか、「クリミア」「ウクライナ」問題は忘れ去られた。そしてプーチンは、「欧米と共に、共通の敵イスラム国と戦う同志」になりつつあります。1年前には、「ヒトラーの再来」と呼ばれた男が、見事ですね。

そして、「ロシアが欧米と和解にむかう」のは、RPEが3月に予想したとおりです。

・アメリカ

「パリ同時多発テロ」前、アメリカは影響力の低下に悩んでいました。

3月、「AIIB事件」が起こり、イギリス、フランス、ドイツ、イタリア、イスラエル、オーストラリア、韓国などが、アメリカを裏切り、中国側についた。

世界は現在、「米中覇権争奪戦」を軸にまわっています。しかし、勝敗は、「その他の大国がどっちにつくのか?」できまる。

アメリカにとって特に痛いのは、味方だと思っていた欧州諸国があきらかに米中間で揺れている。むしろ「中国側」に傾いている

今回のテロで、アメリカは、「イスラム国との戦い」を名目に、欧州への影響力回復につとめるでしょう。

「敵の敵」は味方。「イスラム国」という「共通の敵」を利用し、アメリカ、欧州、ロシアの連帯を構築しようとすることでしょう。

しかし、アメリカは、この連帯を、最大の脅威である中国に対抗するために使うかもしれません。

2001年9月11日、アメリカで同時多発テロが起こりました。そして、世界は大きく変わりました。2015年11月13日、「パリ同時多発テロ」が起こった。今回も、世界は大きく変わるはずです

image by: Frederic Legrand – COMEO / Shutterstock.com

 

ロシア政治経済ジャーナル
著者/北野幸伯
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