キリンの赤字は深刻ではなかった。決算書を分析して見えた前向きな数字

 

赤字の原因は何か?

それでは、キリンが赤字に転落する原因はいったい何なのでしょうか?

キリンは12月21日の下方修正の発表で、ブラジルの子会社の業績不振で、減損損失が発生したことを明らかにしています。つまり、海外投資の失敗で損失が出てしまったということなのです。

キリンは2011年におよそ3千億円を投じてブラジルのビール大手のスキンカリオール社を買収しています。ブラジルはビール販売量で中国、米国に次ぐ世界3位の巨大なマーケットであり、スキンカリオールは当時、ブラジルで世界最大手のアンハイザー・ブッシュ・インベブに次ぐシェア2位を確保していたのです。

キリンはこの買収により、世界第3位のマーケットでの存在感を一気に高め、グローバルでの高い成長を実現していく戦略を描いていたというわけです。

ところが、現実にはキリンの思惑通りに事は運びませんでした。2013年からブラジル経済は減速を始め、ビール市場もマイナスに転じてしまったのです。

スキンカリオールから買収後社名変更をしたブラジルキリンは、縮小していく市場の中で競争が激化し、急激に販売量が減少していきます。そして、2015年には最終的に174億円もの巨額の営業赤字に転落する見込みになったのです。

このような業績不振に陥ったブラジルキリンの企業価値は、当初の買収価格の3千億円には当然見合わず、企業価値を評価し直した結果、およそ1140億円の価値の毀損が判明したために、資産価値を1140億円減じる一方で、評価損として同額を計上し、最終的に赤字決算に転落したというのが、今回の経緯といえます。

今回の赤字が深刻な問題ではない理由とは?

今回キリンは1949年の上場以来初めて赤字を計上することになりましたが、決算書を分析すると、あまり心配する必要はないと思われます。

その理由として、次のようなポイントが挙げられるでしょう。

1.今回の赤字は特別な事情によるものであり、継続的なものでない

前述したように、今回のキリンの赤字は海外の買収企業の企業価値の洗い替えで発生したものであり、一時的なものです。今後の事業に継続的なマイナスの影響を与えるものではないため、そんなに深刻なものではないといっても過言ではないのです。

2.赤字といってもキャッシュの流出はない

通常、赤字というと赤字を補填するために現金が流出していくというイメージがありますが、今回の赤字では現金の流出はありません。資産の目減りによる形式的な赤字であり、560億円の最終赤字といっても、その分の資金手当てをする必要はないのです。

3.業績は順調である

キリンの直近の2015年第3四半期の決算短信を分析すると、前年同期比、売上で1.4%増、営業利益は26.6%増、経常利益は38.4%増、そして当期純利益は149.5%増と非常に堅調なことがわかります。

確かに赤字に転落するのは、好ましい状況ではありませんが、今回のキリンが思い切って上場以来初の赤字決算を行う背景には、業績が堅調な今こそ早期に「負の遺産と決別し、失敗を先送りすることなく、アグレッシブに前を目指していくという強い意志が込められていると思われます。

その意味で、今回の決算は財務の健全化を図る「前向きな赤字といっても過言ではないでしょう。

「上場以来初の赤字」というショッキングな歴史を敢えて刻むことによって、経営陣はもちろんのこと全社員に対して、失敗すればいかにキリンといえども赤字に転落するという危機感を植え付け、もう二度と同じ過ちは繰り返さないと誓う意味もあったのではないでしょうか。

image by: LunaseeStudios / Shutterstock.com

 

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