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年齢なんて、関係ないね!「さらば あぶない刑事」徹底レビュー

かなりあぶないアイツらがまたまた帰ってきた! 『映画野郎【無料メルマガ版】』で今回紹介されているのは、いま話題の「あぶない刑事」シリーズ最新作『さらば あぶない刑事』。えっ、テレビ放映当時このドラマを見てなかった?「関係ないね!」なんて言わないで、一度観れば超ドタバタ刑事モノ映画の魅力にハマること間違いなし。40代以上の方は、あの再放送を思い出しながら「タカ!」って声マネしながらご覧下さい。

『さらば あぶない刑事』(2016)

学生時代、学校から帰ってテレビをつけると、必ず「あぶない刑事」の再放送をやっていた。近藤課長の怒鳴り声や、薫のぶっとびぶりに笑わせられたものだ。何よりタカとユージの息の合ったコンビっぷりやトボけたやりとりは、本当にカッコ良くおもしろかった。

あれから30年、劇場版前作からも11年たった。ひさかたぶりにスクリーンで観た「あぶ刑事」は、予想以上に荒唐無稽だった。応援も呼ばず単独捜査、捜査のたびに銃撃戦やカーチェイス、敵の弾は絶対主人公には当たらない。それがいかに非現実的かは、今じゃ誰でも知っている。現代は刑事ドラマもリアリズムの時代である。いまどきの若い人がいきなり「あぶ刑事」を観たら、「なんじゃこりゃぁ」と呆れ返るかもしれない。

『さらば あぶない刑事』は、しかし、現代風のリアリズムに迎合する事を断固拒否している。そして、「らしさ」をとことん貫いた。オールドファン向けの楽屋落ちと思われようが、わたしは彼らのやり方に「オトナの美学」を感じずにはいられなかった。

横浜港署捜査課の刑事鷹山(舘ひろし)と大下(柴田恭兵)は、定年退職を5日後にひかえていた。ふたりは最後の日まで捜査を続けると宣言し、課長の町田(仲村トオル)をひやひやさせる。横浜では新興の犯罪組織「闘竜会」が勢力を伸ばし、ロシアや中国マフィアと激しい縄張り争いをしていた。その中心にいるのは南米出身の日系人マフィア、ガルシア(吉川晃司)だった。

鷹山には婚約者の夏海(奈々緒)がいたが、夏海がガルシアの知り合いだった事から組織への敵対心を強めていく。一方大下は、かつて更生させた元暴走族リーダー川澄(吉沢亮)の不審な行動を知り、調査を進める。背後には危険ドラッグの密売をめぐる組織の暗躍があった。

本作最大の魅力は、なんといってもオジさんたちの体を張ったアクションであろう。64才の柴田恭兵は、ユージのトレードマークであるかっとび走りをなんと本作でも見せてくれる。掌を広げて走るあの独特のスタイルで。しかも「ミュージックスタート!」のセリフでなつかしのナンバー「RUNNING SHOT」が流れ出す! こういうメタ的手法もらくらくとやれてしまう軽みこそ、「あぶ刑事」の魅力だ。

ダンディ鷹山も負けてはいない。ハーレーダビッドソンにノーヘルで乗って、両手放しで銃をぶっぱなすなんてアクションを、クールにキメられる俳優が舘ひろし以外いるだろうか? 横浜の埠頭で吉川晃司とバイク対決するシーンは、ロングショットで西部劇風に撮られていて、とてもカッコ良い(ちなみに舘はこのバイクアクションを「西部警察」時代からやっていた)。

お約束のカーアクションは、ハリウッド大作に比べればショボイし、TV版の頃のような迫力もない。でも、カースタントの皆さんの奮闘が画面からひしひしと伝わり、これぞニッポンのカーアクションと思わせる。今回は『もっともあぶない刑事』(89)以来となる日産が車両を提供しており、懐かしのF31レパードが登場するのもオールドファンには涙モノだろう。

それにしても、本作を観てわたしはあらためて思った。タカとユージは名コンビ名バディだと。お互いを「ダンディ」「セクシー」とホメ合うのは、なかばジョークではあっても、常に相手を認め、信頼を伝え合う事はバディにとって大切だ。ふたりともいい年齢の重ね方をしたからこそ、素直に愛情表現ができる。それが観ていて気持ちが良いし、すごくセクシーだ。

えてして日本男子は、男同士の愛情表現がうまくなく、正統派バディものが生まれにくい。近年はちょっとした「バディもの」ブームが起きてはいるが、どれもどうもビリッとしない。思うにその原因は、「バディとは何か」という命題をとことん考えず、流行だからと安易に企画を立てているためではなかろうか? 最近のバディものってバディアピールがクドすぎて、逆にこっちがこっぱずかしくなっちゃうのよね。

では、バディとは、何なのか。それはふたりが死をわかちあうこと。相棒の危機にすべてを捨てて駆けつけ、運命を共にすることである。『さらば~』では、ある悲劇に見舞われ落ち込むタカのもとへ、ユージがやってくる。タカの背中に声をかけようとして、言葉が見つからず、ユージはそのまま立ち去る。その無音の十数秒が、ユージの思いをどんなに雄弁に語ることか。タカを思いやってユージはひとりで敵地に赴くが、最後にはタカが現れ、満身創痍で闘いに挑む。軽いジョークをたたきながら。

このクールな渋み、一朝一夕で出るもんじゃないけど、若い人にはぜひお手本にしてほしいものだ。ハマで繰り広げられる大人のファンタジーアクションを、ぜひスクリーンで堪能してほしい。

いいをじゅんこ(フリーライター)

 

【作品データ】
・全国ロードショー中!
・配給:東映

【スタッフ】
監督:村川透/脚本:柏原寛司

【キャスト】
舘ひろし、柴田恭兵、浅野温子、仲村トオル、木の実ナナ、伊藤洋三郎、山西道広、長谷部香苗、ベンガル、小林稔侍、菜々緒、夕輝壽太、吉沢亮、入江甚儀、片桐竜次、吉川晃司、他

・公式HP:http://www.abu-deka.com/

◇いいをじゅんこFacebookプロフィール
https://www.facebook.com/junko.iio.3/about

※過去のバディ映画紹介作リストはこちら

image by: Shutterstock

 

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