山行の電子書籍も出版されているKap塩谷さんの無料メルマガ『私の出合った日本百名山』。今回レポートしてくださったのは、3月に訪れたというドイツの世界遺産・ザールブルグ城砦付近の森なんですが…、山歩きのプロらしからぬ珍道中が待っていました。
地図もなく行き当たりばったりで歩いた―バート・ホンブルクの森
この日はドイツ滞在中の15日間で最も寒い日であった。冬山用のジャケットを着ていても寒く、宿に目出し帽を置いてきてしまったことを悔やんだくらいである。
それで、時々小雨が降る中をただフランクフルト市内を観光するのではなく、自然の中を歩きたいと思った。そうすれば少しは体が暖かくなる…。
ガイドブック「地球の歩き方」を見ると、近郊の見どころに「世界遺産 バート・ホンブルクに残るローマの遺跡リーメス」というのが出ていた。
わずか数行の文と1枚の写真からは「自然の中を歩ける」かどうかはよくわからなかった。ただ、町のかなり外れたところにある、ローマ皇帝が築いた600kmに及ぶ防砦の一部であることなどからそう考えた。
12時近く、フランクフルト中央駅からS5(近郊電車)に乗って出発した。そして30分でバート・ホンブルク駅に着いた。
バス停で調べるとザールブルクへのバスは13時25分である。1時間あるので昼食を取ろうと構内をみると、マクドナルドがある。ドイツのマクドナルドはDB(ドイツ鉄道)と契約しているのだろう、駅構内にあることが多い。そこでバーガーを食べ、読書で時間をつぶしザールブルクへのバスの乗った。
13時45分、ザールブルクに着いた。下車したのは20人ほどのハイカーと2~3人の観光客であった。
ザールブルク城砦を左手に見ながらハイカーの後をついて歩いて行った。地図もコンパスもなく何も頼りにするものもない。できれば、ずっと後をついて歩きここに戻って来たいと思った。
彼らは森の入り口に差し掛かった。
いいぞ! と思ったのもつかの間、看板の前でリーダーらしき人の話が始まりなかなか終わらない。近くに標識らしきものがあったので見ながら2分ほど待ったが、一緒に行くことを諦め自分だけで歩くことにした。
彼らはここには戻ってこないで、別の目的地に行くのかもしれない。私はドイツ語が全くわからないので彼らに尋ねることもできない。
矢印があったので私はそれに従って森の中に入っていった。私が歩き始めると、彼らは道路に沿って森の隅を歩き始めた。森沿いに歩いて行き、目的地が違うのかもしれない…。
私は道路とは直角に森の中に入っていった。
デュッセルドルフからドイツに入り、フランクフルトまで車窓から風景を見てきたが、ドイツには山があまりない。ほとんどが平地である。大きな森林もない。原生林のようなものも見えなかった。
鉄道沿線がそうだったのかもしれないが、ヨーロッパは古い大地である。多くの土地に人間の手が入っているのだろうと思った。だからこの森もきっとそんなに大きくはなく迷うことはない、と簡単に考えた。
ほとんど平らの道をどんどん進んでいく。緩やかな登りになり、人工林の中を歩いて行く。木の種類は場所により広葉樹の所もあり、針葉樹の所もある。
森のはずれに来たのか、少し景色が見えた。緑多い平野の中に少しだけ民家が見えた。
道は左にカーブしてゆるやかに下っていく。木々はしっかり管理されているのだろう、切ってある場所もある。
間伐し針葉樹の苗木を植えてある場所もある。
矢印は右に曲がっている。
この矢印だけが頼りである。ここには日本の山で見かけるような標識はない。少し不安になってくる。
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