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「在日米軍の撤退」は的外れ?米メディアが日本を擁護するワケ

アメリカの有力紙ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)が、トランプ氏の「在日米軍撤退論」を厳しく非難し、日本を擁護する内容を掲載したことが話題となっています。無料メルマガ『ロシア政治経済ジャーナル』の著者・北野幸伯さんは、WSJの発言はすべて事実に基づいたものであり、ようやくアメリカのメディアも「本当のこと」を伝えるようになってきたと評価しています。

WSJ、トランプの「在日米軍撤退論」を批判、安倍改革を絶賛

世界と日本に衝撃を与えた、トランプさんの「対日観」。

これ、ホントに有言実行したらどうなるの? ダイヤモンドオンラインに詳しく書いておきましたので、まだの方は、ご一読ください。

トランプ大統領誕生なら米国は覇権国家から転落する

さて、アメリカ有力メディアがトランプさんの無知を指摘しています。ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)4月8日付。

在日米軍、米国民には安い買い物

を見てみることにしましょう。

日本は、十分「金」を払っている

まずWSJは、「トランプが何を主張しているのか?」を解説しています。

トランプ氏は先月、米国は日本と韓国の「面倒をみているが、(その見返りとして)何も得ていない」と発言した。

 

同氏は米国が日韓両国とそれぞれに締結している安全保障に関する条約の再交渉もしくは破棄を訴えている。これらの条約は5万人規模の在日米軍と2万8,000人規模の在韓米軍を配備する根拠となっている。

面倒は見ているが見返りは何も得ていない

だから、「撤退させる可能性もある」というのですね。米軍が撤退しない条件は、「在日米軍の駐留費用を大幅に増やすこと」です。

だが、これらの条約は一方的なわけでも、米国が負担しきれない取り決めでもない。

 

日本と韓国は現在、駐留米軍経費の半分近くを負担している。年間で日本は約20億ドル、韓国は約9億ドルだ。

 

仮に日韓から駐留米軍が撤退すれば、米国の納税者の負担は増えるだろう。しかも、壊滅的な戦争が起きてきた地域の平和と繁栄を数十年間にわたって持続させてきた価値を抜きにしてだ。
(同上)

日本は、米軍の駐留費用の約半分を負担している。その額は、年間20億ドル(約2,200億円)であると。トランプさんは、「100%負担させろ!」といっています。つまり、「年間40億ドル(約4,400億円)払わせろ!」と。これ、日本にとってはどうなのでしょうか?

私は、「払える額」だと思います。もし在日米軍が撤退し、日本が単独で自国を防衛しようとすれば、今のように「GDP1%」では済まないでしょう。これを、世界の平均的レベル「GDP2%」程度まで上げるとします。すると、今の防衛費がざっくり5兆円として、10兆円になる。つまり、年間5兆円の負担増となります。要するに、トランプさんの無茶に聞こえる要求を聞いても、日本にとっては、「まだ安い」ということですね(「それが属国根性だ!」など、「精神論」の話は、別の機会に)。

米軍の駐留費用を「100%」面倒みると2,200億円増という話でした。ちなみに、日本は、ウクライナに約2,000億円の支援を約束しています。自国の国益にほとんど関係ないウクライナに、「ポン」と支援を約束した。2,000億円というのは、日本政府にとって、その程度の額なのです。

しかしWSJは、「現時点で、日本はすでに十分払っている」というありがたい主張です。

太平洋における米軍の4大建設プロジェクトは日韓両国が300億ドル超を負担しているため、米国の納税者の負担はわずか70億ドルに過ぎない。トランプ氏は建設に関わる人間として、そのことを知れば関心を持つかもしれない。

 

(中略)

 

日本は岩国の米海兵隊航空基地の必要経費約50億ドルのうち94%を負担しているほか、普天間基地の移転にかかる約120億ドルを全額負担している。日本はさらに、米領グアム島の新基地に必要な経費30億ドルの36%をあらたに負担している。
(同上)

グアム新基地の金まで出している。トランプさんに、是非知ってほしいものです。

日本は、「地政学的」に重要

「日本は十分金を払っている」と解説した後、WSJは、「日本は地政学的に重要だ!」という話に移ります。

冷戦時代、日本は西側諸国にとって、太平洋を潜航するソ連の潜水艦に対する防衛の要だった。

 

今日では、東アジアにおける中国の台頭に対抗するうえで重要な砦(とりで)となっている。
(同上)

中国に対抗する重要な砦

まさにそのとおりですね。トランプさんは、経営者で、金銭的に「損か、得か」しか見ない。だから、「地政学的」な話は、理解できないか、興味がないのでしょう。

WSJは、安倍改革を絶賛する

さらにWSJ、「安倍総理はがんばっている」という話をします。

GDP比1%という防衛費はあまりに少ないが、日本は4年連続で防衛予算を増やしている。

 

改革論者の安倍晋三首相は米国、東南アジア、オーストラリア、インドとの関係を築いてきた。これがなければ中国は地域の覇権を楽に掌握することになろう。
(同上)

まさに、そのとおりですね。アメリカのメディアも、ようやく理解が進んできたようです。

多大な政治的犠牲を払ったうえで、安倍政権は憲法解釈を変更し、集団的自衛権の限定行使を可能にする新たな法律の施行に道を開いた。

 

日本は今や、北朝鮮のミサイルから米国を守ることができる。

 

南シナ海で米軍の艦船がパトロールを行っている際には、中国の政策立案者らは常に日本の海上自衛隊のことも念頭に置かなければならなくなった。
(同上)

安倍総理が「集団的自衛権行使容認」に道を開いたことを正当に評価しています。実際、日米安保が「片務」から「より双務」に変わったことで、中国の攻撃的姿勢は弱まりました。要するに、「日米はより一体化したから、日本に手を出すと、アメリカが出てくる可能性が高くなった」ということなのです。

安倍首相とシンガポールのリー・シェンロン首相はここ数日の間に、アジアにおける米国の役割を称賛し、近視眼的な撤退がもたらすダメージについて警告した。

 

米国民はこれらの国がフリーライダー(ただ乗りする人)ではないことと、アジアでの前方展開が米国の安全保障にとって重要であることを理解しなくてはならない。
(同上)

トランプさんが、WSJの記事を読むことを期待しています。

いずれにしても、今回のアメリカ大統領選で世界は大きく変わりそうです。後から歴史を振り返り、「あの大統領選が分水嶺だった」ということになるでしょう。

image by: R. Gino Santa Maria / Shutterstock.com

 

ロシア政治経済ジャーナル
著者/北野幸伯
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