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日本の核武装、アメリカは本当に許すつもりなのか?

共和党の大統領候補トランプ氏は、「『在日米軍の撤退』は的外れ?米メディアが日本を擁護するワケ」の記事にもあるとおり、「日本の核保有を容認する」と明言しています。しかし無料メルマガ『ロシア政治経済ジャーナル』の著者・北野幸伯さんは、「実際日本が核保有をしようとしたらアメリカは大反対する」と断言。その論拠はどこにあるのでしょうか。

アメリカは、日本の核武装を許すか?

アメリカ大統領選で、共和党トップを走るトランプさん。数々の爆弾発言で、日本と世界を怯えさせています。曰く、

この2番目、「日本の核保有を許す」について。

核兵器、軍事的には確かに優れています。北朝鮮のような最貧国でも作ることができ、抑止力は抜群。アメリカのような超大国でも、横暴の限りをつくす「核保有国」北朝鮮への攻撃を躊躇する。一方、核を持っていなかったアフガン、イラク、リビアなどは、アメリカにメチャクチャにされてしまいました

トランプ発言について、日本の一部の人は喜んでいるようです。「よっしゃ! これで核武装して、日本は自立できる!」と。

ところが、この問題はそう単純ではありません。まず、いわゆる戦勝国群イギリスフランス中国ロシアが反対する。そして、アメリカは本当に日本の核保有を支持するのかきわめて怪しい

日本が核武装するためには、「核拡散防止条約」(NPT)から脱退する必要がある。世界190か国が加盟しているNPTから脱退することで、日本は世界で孤立します。

戦前も同じようなことがありました。そう、世界が反対しても満州国を存続させたかった日本は、国際連盟を脱退したのです。その後どうなりましたか? 1937年時点で、アメリカ、イギリス、ソ連、中国を敵にまわし、必然的に敗北しました。

「全世界を敵にまわしても」と決意すれば、日本は核武装を達成できるでしょう。しかし、それで「世界の孤児」になってどうするのでしょうか? 軍事的安全は得ることができるかもしれません。

とはいえ、たとえばアメリカは、戦前・戦中のように、日本への原油の流れを止めることができる。「エネルギーがなくなった国民生活」、ちょっと想像してみましょう。

さらに、過酷な金融制裁経済制裁を課すこともできます。「日本が核兵器を手放すまで制裁をつづける」と国際社会が決意したら、国民生活はどうなるのでしょうか?

「核武装派」の人たちは、国連安保理常任理事国を全部敵にまわし、

この2つからどうやって日本国を守るのか、説明する義務があると思います。

「…っていうか、トランプさんは、『日本の核保有を許す!』と言ってますよね? だったら、アメリカは許すのではないですか?」

これは、そうかもしれないし、そうではないかもしれません。いずれにしても、過去と現在の状況を見ると、「アメリカは日本の核武装を断固として許さない可能性が高いのです。

アメリカ、驚愕の本音

日本を代表するリアリスト伊藤貫先生は、『中国の「核」が世界を制す』という名著を出されています(伊藤先生は、核保有派ですが、私は心から尊敬しています)。この名著の中に、ペンタゴンの日本部長ポール・ジアラさんと1994年に会った時の会話がでてきます。仰天の内容ですので、皆さん、ゆっくり熟読してください。ジアラさん曰く、

クリントン政権の対日政策の基礎は、日本封じ込め政策だ。

1990年にブッシュ政権は対日政策のコンセプトを大きく修正し、「日本を封じ込める」ことを、米国のアジア政策の基盤とすることを決定した。

クリントン政権も同じ考えだ。クリントン政権のアジア政策は米中関係を最重要視するものであり、日米同盟は、日本に独立した外交、国防政策を行う能力を与えないことを主要な任務として運用されている。

(以上 p200)

ちなみに当時から北朝鮮の核問題はあったのですね。これについてジアラ日本部長(当時)は、どういう見解だったのでしょうか?

現在、北朝鮮の核開発が問題となっているが、たとえ今後、北朝鮮が核兵器を所有することになっても、アメリカ政府は、日本が自主的核抑止能力を獲得することを許さない。

 

東アジア地域において、日本だけは核抑止力を所有できない状態にとどめておくことが、アメリカ政府の対日方針だ。この方針は米民主党だけでなく、共和党政権も賛成してきた施策だ。
(同上)

どうですか、これ? 20年前からアメリカは、「北朝鮮が核兵器を保有しても日本に核武装はさせない」と決めていた。

アメリカは、日本の核武装を警戒し始めた?

「とはいえ、20年も経てば状況も変わるのではないですか? アメリカも、『核武装容認』の方にふれているのでは?」

こういう意見も出るでしょう。興味深い情報があります。アメリカが日本から核物質を持ち出し始めているのです。産経ニュース3月21日から。

プルトニウム輸送船が到着 東海村から米国へ返還、21日にも出航

 

核物質の管理強化を進めるオバマ米政権の方針に沿って日本が米国への返還に合意した研究用プルトニウムなどの核物質を運ぶとみられる英国の輸送船が21日朝、茨城県東海村の港に到着した。

 

日本原子力研究開発機構(原子力機構)の施設に保管されていた核物質を積み込み、同日にも米国に向け出航する見通し。

 

プルトニウムは331キロで原爆40~50発分に相当。冷戦期に英米仏が日本に提供し、高速炉の実験に使われた。

 

米国の核監視団体によると、これほどの量のプルトニウムが海上輸送されるのは1993年にあかつき丸が約1トンをフランスから日本に運んで以来となる。

今年は、年初から北朝鮮が「水爆」実験したり、ミサイルぶっ放したりして騒がしいですね。それでアメリカは、「日本は核武装するのではないか?」と恐れ始めている。今回の「プルトニウム回収、「核武装は許しませんよ!というシグナルだというのです。

親日派のケント・ギルバートさんでも

190か国が加盟するNPTから脱退し、日本が核武装に突き進む。すると、アメリカは黙認せず、欧州、ロシア、中国を巻き込んで「日本つぶしを主導する可能性があります。「核武装しても、アメリカは日本の同盟国」などと甘い見通しは持たない方がいい

日ロ戦争時、日本は当時の覇権国家イギリスと「日英同盟」を結んでいました。イギリスは、日本の勝利に大いに貢献してくれたのです。そして、第1次大戦が起こった。イギリスは、同盟国日本に「陸軍を欧州に派兵してくれ!」と懇願します。しかし、日本は(海軍は出したが)この要求を一蹴したのです。結果、イギリスは日英同盟の意味を見いだせなくなり、1923年破棄しました。

その後、同盟国でなくなったイギリスは、「遠くから日本を暖かく見守った」のではありません。アメリカと組んで日本つぶしに動いたのです。

今の同盟国アメリカだって同じことです。コントロール不能になった日本を、中国やロシアと組んで潰さない保証がどこにあるでしょうか? 中国は、「思いがけず反日統一共同戦線戦略が成就した」と大喜びすることでしょう。

参考:中国の反日統一共同戦線戦略とは?

さて、「アメリカは日本についてどう思っているのだろう?」。このことについて最近興味深い動画を見ました。「日本を守る3大アメリカ人」といえば、

そして、

でしょう。そのケント・ギルバートさんが、「龍馬プロジェクト」の神谷先生と対談した。神谷先生が「日本核武装の可能性」について質問したところ、ケントさんは、「絶対反対」なリアクションでした。ケントさんは、「韓国と日本が核兵器を持つことはアメリカが許しません」と断言。その心は、「アメリカが持ってるんだからいらない」そうです。

さらに、「核兵器保有国はあらたに核兵器を持とうとする国を許しません。これ鉄則です!」。つまり、日本が核保有しようとすれば、アメリカ、イギリス、フランス、ロシア、中国が一体化して叩きつぶすということです。ケントさんは、日本が対中国で核保有すれば、「より不安定になる」とおっしゃっています。

今回の話は、トランプさんにそそのかされて、日本が核武装に突き進めば、「全世界を敵にして破滅する可能性が高い」という話でした。

image by: Joseph Sohm / Shutterstock.com

 

ロシア政治経済ジャーナル
著者/北野幸伯
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