先日の決算報告で、2期連続二桁成長の達成を発表したKDDI。その営業利益の1割以上、実に840億円が「販売手数料の削減」によるものとのことですが、ケータイ・スマホジャーナリストの石川温さんはメルマガで「そのうちかなりの割合がキャッシュバックをなくして得られたコスト削減効果」と推測。総務主導のキャッシュバックは正しかったのか? との疑問を呈しています。
キャッシュバックは本当に「悪」だったのか
国内大手3キャリアの決算状況を見ると、NTTドコモは新料金プランの導入で落ち込みが見られるものの、他社は堅調な売上げを達成している感がある。
通信業界は、昨年4月に導入された消費増税や、昨今の円安基調といった影響も受けることなく、安定して収益を稼ぎ出している。新料金プランの導入や海外への出資で失敗しなければ、本当にリスクなく儲けることのできる事業と言える。
先日、発表された決算内容を振り返ると、特にKDDIは営業利益は2期連続二桁成長を達成している。このご時世、二桁成長を2期も続けるのは大変なことだ。
その内訳を見ると、モバイル通信料金の収入増に加え「au販売手数料の削減」が貢献しているという。前期6632億円の営業利益だったのが、7413億円に増えているのだが、そのうち840億円がau販売手数料の削減によるものだという。
「販売手数料の削減」で思い出されるのが、昨年春頃から始まった「キャッシュバックの禁止」だ。
つまり、840億円のすべてではないだろうが、そのうち、かなりの割合が「キャッシュバックをなくして得られたコスト削減効果」と推測できる。
それまで、かなりの額をキャッシュバックに突っ込んできたと言えるだろうし、その結果が「キャッシュバックを辞めたら、儲かっちゃいました」というわけだ。
KDDIだけが、決算資料で強調していたのだが、これは3社とも似たような状況にあるのは間違いないだろう。
ただ、このキャリアが儲けてしまった「販売手数料の削減」というのは、もともとは消費者にキャッシュバックとして還元されていた金額とも言える。つまり、本来であれば、消費者が手にしていたであろう数百億円が、結果、キャリアにプールされ、利益になってしまったのだ。
総務省の意向として「キャッシュバックは一部のユーザーだけが利益を得て、ほかのユーザーには不公平だ」という指摘があって、キャッシュバックは終息したはずだ。
しかし、いまのままでは、単にキャッシュバックを辞めたことで、ユーザーへの還元は奪われ、キャリアだけが儲かる構図になってしまっている。
解約率を見ても、ソフトバンクだけが解約率がアップしているものの、KDDIとNTTドコモはかなり改善している。おそらく、キャッシュバック競争がなくなり、ユーザーがキャリアに囲い込まれている傾向が強くなっているのだろう。
常日頃から「キャリアは儲けすぎ」という指摘があるなか、このままでは、競争はなくなり、さらにキャリアばかりが儲かる構図になっていく。
「キャッシュバックを復活せよ」とは言わないが、販売手数料削減で儲けた分を、ユーザーに還元するような施策や料金引き下げを促すことまで総務省はやらないと、結果、日本の通信業界は寡占化が進み、悪い方向に進む気がしてならないのだ。
著者/石川 温(ケータイ/スマートフォンジャーナリスト)
日経トレンディ編集記者として、ケータイやホテル、クルマ、ヒット商品を取材。2003年に独立後、ケータイ業界を中心に執筆活動を行う。日経新聞電子版にて「モバイルの達人」を連載中。日進月歩のケータイの世界だが、このメルマガ一誌に情報はすべて入っている。
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