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病床「10年後に1割削減」がなぜ可能と言えるのか。朝日一面に異議あり

6月16日の朝日新聞一面記事を飾った、政府による「医療機関の入院ベッド数の1割削減可能」という推計。これについてジャーナリストの内田誠さんはメルマガ『uttiiの電子版ウォッチ』で痛烈に批判、「医療から介護 推進」などと見出しを打った朝日新聞に対しても「よく平気で書けるものだ」とその姿勢を疑っています。

介護保険とはいったい何だったのか

今朝の各紙、《朝日》を除く3紙が国会あるいは安保法案がらみのテーマ。《朝日》も1面左は参考人2人の記者会見を伝えるが、トップは医療費削減関連。では個別に。

「理想」はとっくの前に破綻している介護保険

【朝日】の1面トップは「病床『1割削減可能』」「25年政府目標 医療から介護 推進」とある。2025年に全国の入院ベッド数を10万~20万床削減することを政府が目標にするという。入院ではなく、自宅や介護施設での療養に切り替える。医療と介護が連携しながら地域の中で治療やケアを受けられるような仕組みが必要だとする。

uttiiの眼

「社会的入院は良くないですよね」とか「これからは施設ではなく自宅で療養が受けられるようにしましょう」などということを、国はもう20年以上も言い続けているのではないか。《朝日》も見出しで「医療から介護 推進」など掲げているが、よく平気で書けるものだと思う。先々週だったか、日本創生会議の「老人の地方移住提言」がニュースになったとき、2025年の介護難民は43万人と推計されていたではないか。そこに医療のキャパを10万~20万床減らしてしまったら、どんなひどい事態に陥るか、想像できないのだろうか。

介護の方はどうなっているのか。「施設介護から在宅介護へ」「家族による介護から社会的介護へ」という介護保険の「理想」はとっくの前に破綻している。

高齢者の医療・介護需要が激増するときに、10万人~20万人分のベッドを減らし、その分は介護保険施設や訪問介護の世界に押しつけようというのだが、既に介護の方は門を閉ざしつつある

その証左が、昨年6月に成立した地域医療・介護推進法という「稀代の悪法」で、年金収入一定水準以上の利用者については自己負担を2割に引き揚げ、要介護1と2の人には特養入所を原則諦めさせ、特養や老健の食費・部屋代など原則自己負担のものへの補足給付の給与条件を厳格化し、要支援の人向けの訪問・通所介護は介護保険から市町村事業に移管させるという、大ナタが振るわれたことだ。

>>次ページ 「稀代の悪法」が成立した裏にあるもの

要は介護保険が立ちゆかなくなったことを覆い隠すために、もともとケチケチだった制度を、さらに超ケチケチに作り直すということだ。利用者の負担を増大させ給付を削減することで、介護保険自体を延命させよういうわけだろう。しかし、それで楽になった介護保険財政を当てにして、今度は医療費の削減を実現しようとする。介護の世界はますます欺瞞的なものになり、保険料徴収だけが肥大化し、サービスは極小に向かって縮んでいくのではないか、そんな想像が頭に浮かぶ。最後の最後は、純粋な徴税そのものに転化したりして。

社会保障の諸制度が、自らの生き残りのために、負担を押しつけ合っている構図にも見えるが、もともと介護保険は、医療のなかから介護を切り出し、そこに公費と保険料と自己負担を合わせた発足時4兆円のファンドを当て、民間企業の参入も刺激しながら作り上げようとしたものだが、同時に医療保険制度の延命のために作られた側面がある(要は、目先を変えた、社会保障費用名目での増税。その意味では今回の消費税増税と同根)。自前の保険財政を持ちたいという老健局官僚の宿願達成であると同時に、医療保険の財政健全化に奉仕するものでもあったはずだ。

今回の計画は、高齢化のピークを迎える前に、制度の外観を取り繕うため、高齢者とその家族にいっそうの負担を押しつけようということだから、結局のところ、医療からも介護からも弾き出されてしまう人々が大量に生まれる時代となるだろう。介護報酬の増額など、公的な資金の使い道を大きく変えなければ、介護難民は激増する。

朝日新聞はシレッとこの記事を載せているが、これが、《朝日》の編集委員諸氏も大賛成していた「税と社会保障の一体改革」の中身だということは、どこにも書かれていない。消費税は上がったが、社会保障は貧しくなった。そしてさらに消費税は上がる。

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『uttiiの電子版ウォッチ』2015/6/16号より一部抜粋

著者/内田誠(ジャーナリスト)
朝日、読売、毎日、東京の各紙朝刊(電子版)を比較し、一面を中心に隠されたラインを読み解きます。月曜日から金曜日までは可能な限り早く、土曜日は夜までにその週のまとめをお届け。これさえ読んでおけば「偏向報道」に惑わされずに済みます。
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