日本征服と称しつつ全国のウマいものを食いまくっている、『ママチャリで日本一周中の悪魔』こと大魔王ポルポルさん。別府温泉で大いに英気を養った後は、一気に九州を北上し、本州・山口県に再上陸したとのこと。その目的は、明治維新胎動の地として知られる萩に存在する“伝説の和菓子”らしいのですが……。
数量限定!萩に伝わる丸ごとみかんの高級和菓子とは?
山口県の萩市という地に、“純白に光る伝説のみかん”があるのを知っているだろうか。
なんでもそれは、みかんを贅沢に丸ごと使った「夏蜜柑丸漬」という高級な羊羹で、数量限定発売のため、なかなか入手ができないらしい。
魔界でも、そんな奇怪な食べ物は聞いたこともないし、食べたこともない。となれば、どうしても一度食べてみたい。
「九州は魔族の手に落ちた。九州にもう用はない!」
九州地方の征服を終えた我輩は、関門海峡を渡って本州に戻ってきた。日本征服の残すミッションは、「事故なく」「怪我なく」「病気せず」に、ママチャリに乗って東京に帰ることのみ。戻りは島根県・鳥取県と山陰地方を進む予定で、そのルートの途中で萩は通るのだ。
それにしても、長かった……。数か月前にアツアツで激ウマの瓦そばを征服した下関の地に再び立ち、我輩は思わず感極まっていた。
無理はない。雨の降るなかいくつも峠を越えて街へと下り、宮崎では朝からニューハーフらしき人物に襲われそうになり、熊本では大きな地震が起こり、博多ではバカ盛りトルコライスでうなされ、そして前回は別府でどっぷり湯船に浸かり……。
数々の楽しみと苦しみを乗り越え、再び戻って来た。そのことに、少しだけニンゲンらしい“蒼い涙”を浮かべたのだった。
今いる「や(魔)ぐち県」は、下関の瓦そば以外にも、秋芳洞という絶景の鍾乳洞や、山賊焼きで有名な「いろり山賊」など各地をすでに征服しており、我輩にとっては慣れた土地である。
ただ、この山口県に入った途端に、我輩の定番野宿スポットである「道の駅」が、なぜか激減してしまうのがいただけない。我輩は毎晩、営業終了後の店の軒先を借り、そこに寝袋を敷いて睡眠を取りながら、一路萩へと向かっていた。
太陽の光が眩しいので、起床はいつも日の出とともに、である。どうしても自然に起きてしまうのだ。そんな悪魔らしからぬ生活サイクルを続けているからか、最近はなんだかとても健康的……そんなことを考えながら、ひたすらママチャリを漕ぎ続けて3日間。我輩はなんとか萩市内にたどり着いた。
「ね、眠い……」
この日も朝早くから動きだし、ちょっと寝不足気味。眠い目をこすりながら、さっそく“純白に光る伝説のみかん”が売っているという店を探す。
「ガッハッハッハッハ!! 魔界にも売っていない高級羊羹! 今に見ていろ!!」
萩の街中を、全速力のママチャリが駆け抜ける。途中でパトカーが何度も横を通ったような気がするが、そんなことはまったく気にしない。そんな調子で探していると、程なく目的地である「光國本店」を発見した。
邪魔にならないよう店のそばにママチャリを止めた我輩は、恐怖のオーラを全開にして店内に入る。
「す、すみません! 夏蜜柑丸漬、まだあります……?」
なにしろ限定品と聞いていたので、まだ売っているのか、それだけが心配だったのだ。
奥から現れた店員さんは、我輩の顔を見るなりいきなり、
「ひぃぃ! なんだね、キミは!!」
と奇声を発した。創業から何百年も続いていそうなこの店だが、恐らく魔族が来たのは初めてだったのだろう。そこで事情を説明すると、幸運なことにまだ3つ残っているらしい。
それを知ると我輩は、闇のオーラを再び全開にして店員さんに言いつけた。
「おい! 貴様! 我輩の羊羹を1つ……買います」
こうして我輩は、ついに“純白に光る伝説のみかん”を手にした。その高級感漂う雰囲気に、否が応にも胸が躍る。
「ついに手に入れたぞ、夏蜜柑丸漬! オレンジに光る秘宝。まさに“萩の宝”である。ガッハッハッハッハッハ!!」
羊羹に向かって独り言をつぶやく我輩。それに対し店員さんは、
「お客さん。その顔じゃ肌が荒れるでしょう」
などと軽口を叩きながら、羊羹が食べやすいようにその場で切ってくれると申し出てくれた。
「あ、そんなことないっすよ。ハハハハ……」
我輩は店員さんの無礼な発言を軽く受け流しながらも、目線は夏蜜柑丸漬から片時も離れない。
店員さんは慣れた手つきでその秘宝に刃を差し入れ、半分に割る。するとそこに、純白な輝きを発した断面が現れた。まるで鏡。中が透き通っている。
「な、なんだ……。これはキラキラではないか!」
その輝きに思わず息を飲む。長旅のため密かにできていた切れ痔の痛みも忘れるほど、その輝きに我輩は度肝を抜かれ、そして魅了された。
聞けばこの夏蜜柑丸漬、全て手作りで作られているらしい。みかんを下からくり抜き、そこから羊羹の元を入れて作っているという。
「気にいったぞ! この和菓子は1つ1つにニンゲンどもの魂が込められておるのだな。……そうとあれば仕方がない! 我輩が特別に食べてやろう。ガッハッハッハッハッハ!!」
我輩は切ってくれた店員さんに礼を述べ、その一片を口に入れる。
すると口の中にみかんの爽やかな甘酸っぱさが広がり、その後に羊羹の上品な甘さが追いかけてくる。ニンゲン界には「エロカッコイイ」という表現があるようだが、さしづめこれは「美味スッパイ」か。
我輩は持参していたローソンの100円緑茶を飲み干し、思わず笑みを浮かべた。
「これは萩の宝……いや、これは日本の宝だな! ガッハッハッハッハッハ!!」
夏蜜柑丸漬の美しき甘さに、これまでの疲れも吹き飛び大満足な我輩。その美味さに敬意を表し、征服をするのはやめておいた。
すっかり食べ終わった我輩は、再びママチャリに跨った。
「さて、次はどんなものを征服してやろうか!」
我輩はニヤニヤしながら、島根県へと向かって再びペダルを漕ぎ出した。
DATA
光國本店
住所:山口県萩市熊谷町41
営業時間:9:00~18:00
定休日:不定休
『大魔王ポルポルの日本征服の旅』
著者/大魔王ポルポル
日本一周の旅をしている大魔王ポルポルである。旅の裏側、隠れた小話など話したいことは盛り沢山!! だがしかし! タダで公開はできない。メールマガジンで日本のいろいろなことを掲載するのだ。メルマガに記載のアドレスに悩みや質問を送ってくれればメルマガで公開回答するぞ! ガッハッハッハ!!
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