射殺された狙撃犯ですが、オマル・マティーン容疑者(29歳)であると特定されています。米国生まれの米国市民で、警備会社に勤務していたそうです。いわゆる民間のガードマンというわけで、警備対象として派遣された先としては、地域の裁判所やゴルフコースなどが挙げられており、名の通った警備会社であるようです。また、そのような警備会社に勤務していたことから、業務上、銃器の扱いには慣れており、相当な訓練もしていたようです。
既に父親がインタビューに応じていますが、この父親はシャデーク・マティーンといって、アフガニスタン出身であるだけでなく、過去にはアフガンの大統領選に出馬という話もあったというパシュトン人の大物だという報道もあります。
また、現在でもタリバンに人脈があるそうで、フロリダ在住ですがワシントンの政治家や国務省などと頻繁に行き来をしている人物だという報道もあります。そうなると、ビル・クリントン政権以来、国務省が模索している「タリバン無害化」工作のチャンネルの一つだった可能性もあります。
このマティーンという男ですが、現在は2回目の結婚をしており、幼い子どももいるようです。また、以前に短期間だけ結婚していたという元妻がインタビューに応じていますが、大変に暴力的で身の危険を感じたので別れたということのようです。この元妻によれば、その異常性は、ほとんど精神疾患のレベルだったそうです。
その父親の証言によれば、マティーンは数年前に「自分の目の前で男同士がキスをしているのを見て激昂した」ことがあり、それが凶行の遠因になったのかもしれないとしています。
このマティーンですが、FBIは過去2回「テロリストとの関係」を疑って取り調べを行ったという履歴があります。職場の関係者に「過激思想」を匂わすような暴言を吐いて通報されたり、SNSに怪しい書き込みをしたりというのが発端とされています。但し、そのいずれもが「過激思想への傾倒は真剣なものではない」「テロ組織との濃厚な関係は認められない」という結論となっており、今回の事件を未然に防止することはできませんでした。
事件を受けてFBIのジェームズ・コーメイ長官が会見していますが、マティーンに関しては、10ヶ月間に及ぶ調査を行ったとしています。ですが、「イスラム教徒だということを理由に、同僚に差別発言を浴びせられたのに激昂した」という「個人的な憤怒」の事例という分析で終わってしまっていたそうです。
尚、ISILとの関係についてですが、確かにマティーンはISILを信奉していたようで、乱射事件の最中に自分から911(緊急通報番号)に電話をしてISILのバグダディとの関係を喋ったりしています。また、ISILも「戦士である」などというコメントを出しています。ですが、少なくともISILの側のコメントは完全に「後追い」のものですし、事件前における「犯行指示」があった可能性は否定されています。
また、フロリダ州法では、このような「過去2回テロ組織の関わりを疑われた」人間でも、全く自由に銃火器も弾薬も買えるようになっています。ちなみに、マティーンは「軍用のボディジャケット」つまり強力な防弾チョッキを購入しようとして、これは販売店から断られているようです。
さて、今回の事件の政治的影響ですが、まず本稿の時点(現地時間の月曜日、13日の午後)では、まだ犠牲者全員の特定ができていません。また、そのことを裏返しとして、家族の消息が分からないという人も残っています。そして、全国のLGBTコミュニティは衝撃と悲しみの中にあります。捜査に関しては端緒についたばかりです。