米史上最悪「フロリダ銃乱射」事件さえも政治利用する大統領候補たち

 

そのような状況ですから、この時点で事件を政治問題化するというのは著しく不適当と考えるのが常識でしょう。にも関わらず、この13日の月曜日一日、この事件は「大統領選の争点」であるかのように扱われました。

というのは、他でもないドナルド・トランプが激しい勢いで、この事件を政治問題化しているからです。トランプは、事件当日の12日からツイートで攻勢を開始し、13日の午前中にはTV各局の電話インタビューを受けると共に、13日の午後にはニューハンプシャー州で支持者を集め、スピーチを中継させるという方法で、全米に対して主張を繰り広げました。

その内容ですが、「イスラム教徒の移民を即時停止する」「銃規制には反対する」ということに加えて、オバマ大統領とヒラリー・クリントン候補を徹底的に罵倒するというものでした。とにかく、事件をチャンスと捉えて「一気に政治的な攻勢をかけよう」という姿勢は明らかです。

トランプ候補は、ここ数週間苦境にありました。自分の詐欺まがいのビジネス(「トランプ大学」)が訴えられている訴訟を指揮する連邦判事を「ヒスパニック系」だから「自分を敵視している」と決めつけて、暴言を繰り返した結果、共和党の本流政治家から激しい批判を浴びていたのです。

にも関わらず、謝罪のタイミングを失ったトランプは、ジリジリと支持率を下げていました。反対に「ようやくの一本化」が進展し始めた民主党のヒラリー陣営は勢いをつけていたのです。

トランプとすれば、これで形勢をひっくり返すチャンスが来たと思っているのでしょう。13日午後の演説では、どこかに「嬉々とした」表情すら浮かべていたのですから、こうなると不謹慎という以前に、人間として大きな欠陥を抱えているとしか言いようがありません。

トランプの主張については、容易に反論が可能なものばかりですが、全く聞く耳を持たないばかりか、罵倒するような反論を浴びせるだけとなっています。

まず、狙撃犯のマティーンに関しては「アメリカ生まれ」であるから、移民を取り締まっても意味はないという反論に対しては、「この一家が全部怪しい」のだから「即時に移民排斥をするのが一番効果がある」と断じています。例えば、2015年12月にカリフォルニア州のサン・ベルナルディーノで発生した乱射事件にしても、男の方でなく妻の方を問題にして「いい加減な婚姻ビザでパキスタンから入れたというのが問題」と、とにかく「イスラム系移民の即時禁止」を叫ぶだけでした。

更に「イスラム教のコミュニティが怪しい」のだとして、例えばDV被害に遭って離婚した狙撃犯の前妻に対しても、「怪しければ通報すべきで、イスラム教徒はモスクの中に何かを隠している」と一方的に断じていました。

また、これを機会にLGBTコミュニティーにラブコールを送っており、「口先だけのオバマ、ヒラリーではなく、あなた方を守れるのは自分」だとして、トランスジェンダーのトイレ使用問題ではヒドいことを言っていた過去を忘れたかのような発言を繰り返していました。

また銃規制に対しては激しく反対しており、「事件現場に銃があったら、こんなに死なずに済んだ」というNRA(全米ライフル協会)の主張をそのまま繰り返しているばかりか、「銃規制とは善人から銃を取り上げることだ。そうなれば銃を保有するのは悪人ばかりになる」としていました。

これに対してヒラリー・クリントン候補は「今日という日に問題を政治化したくない」としながらも、トランプの攻勢に対しては反攻しないわけにはいかない中で、オハイオ州のクリーブランドで演説して「銃規制」と「イスラム差別レトリックを許さない」という点で、徹底的にトランプに対抗していく姿勢を見せています。

本稿の時点では、そのような政治的な戦いが激しい形で始まったということをお伝えするに止めておきますが、一言だけ今後の見通しを申し上げていくのであれば、この論争は今回の大統領選を左右する大きなものになる可能性を指摘しておきたいと思います。

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