6月27日にパロマ瑞穂スタジアムで行われた女子200メートルで、自身の持つ日本記録を更新し、22秒88で優勝した福島千里選手。長年、短距離女子界をリードしてきた福島選手の指導にあたってきたのが中村宏之監督です。福島選手を日本新記録に導いた中村流指導法とは一体どんなものだったのでしょうか? 無料メルマガ『致知出版社の「人間力メルマガ」』で監督ご自身が語られています。
本当に大切なことだけを伝える
短距離に限って言えば、日本の指導者には、すぐに口を出したがる人がとても多い。何事も技術中心で伝えたがるんですよ。もちろんちゃんとした根拠に基づいているわけですけど、
「足の着地がどうだ」
「腕の振りがどうだ」
「角度がどうだ」
とすぐに口を出したくなる。
単純に前に進むことなんですよ、短距離なんていうのは。
確かにテクニックや技術というのはたくさん取り入れたほうがいい場合もあります。ところがあまりに情報を詰め込みすぎると、逆に何をやったらいいのか選手が分からなくなってしまうんです。
だから指導者は自分の考え方をよほどしっかり持たないと、選手が振り回されてしまうことになります。
実は福島も最初の頃は、右の腕振りのことで周囲から結構言われたんですよ。もう本当にあちこちで、福島の腕振りを直させたほうがいいと言われたので、そのたびに僕は
「あれがいいの。あれでうまくリズムをとって走っているの」
とだけ言ってきました。ところがここ最近、ちゃんと理に適った腕振りになってきたんですよ、本人に何も言わなくても。
力強く腕を振って前に進もうと思ったら、自ずと直っていくんです。だから指導者というのは我慢が必要ですね。いつも近くで見ているわけだから、つい言いたくなっちゃうんですよ。でもそれを我慢して、いかにじっと見守ってあげられるかです。
でも、私自身、いまはこんな偉そうなことを言っていますけど、かつてはそうではなかったんですよ(笑)。
私が福島の指導にあたるようになったのは60歳を過ぎてからですが、もし仮に40歳くらいの頃に出会っていたら、彼女は潰れていたと思います。当時は選手を捕まえては、ばんばん口を出していましたから。
でもだんだん口を出さないようになって、黙って見るようになった。いまはもう選手のことをじっと見ていれば、だいたいのことは分かります。だから本当に必要なことしか言わない。シンプル・イズ・ザ・ベストですよ。
『致知』2015年9月号掲載
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