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判決無視を決め込む中国、世界は「やったもん勝ち」を認めるのか?

南シナ海問題で下された仲裁裁判所の裁定を無視し続ける中国ですが、このまま暴走を続け日本に攻め込んでくるような事態となったら、アメリカは私たちを守ってくれるのでしょうか。また、すでに危険な状態にある尖閣への対処法は? 国際関係アナリストの北野幸伯さんが、無料メルマガ『ロシア政治経済ジャーナル』でこれらの疑問に答えています。

結局、誰も中国の膨張、侵略を止められないのでは???

仲裁裁判所が、「南シナ海における中国の主張は、全部根拠なし!」と判断した。中国は、「俺たちは間違ってない! 間違っているのは、仲裁裁判所だ!」とキレている。そして昨日は、「中国は、せっかく親中政権が誕生したフィリピンを怒らせ、速やかに反米にかえてしまった」という話をしました。

中国は明らかに孤立してきていますが、読者のIさまから、こんなメールをいただきました。

いつもメルマガ拝読しておりますありがとうございます。

 

私なりの考えですが北野さんの言われるとおり中国はみんなから「やっぱりやめたアメリカにしよう」と思われていると思います。

 

ただ、だからと言って中国が実力行使してきた場合、特にアジアにおいては本気で止める国はどこもなく、やりたい放題になると思います。アメリカも本気では止めない。止めますか?

 

チカラのあるところとは戦いたくない。ならチカラのある国が無茶を言っても、やったことが既成事実となるだけです。南沙諸島の埋め立て基地化をスケルトン返し(原状復帰で)すべて元に戻して返すはずもありません。つまり中国がどう思われようと関係なくやったことが事実としてのこり、だれも止められない、そのまま進むと思うのですが如何でしょうか? 日本は対抗手段ないのですかね…。

「そうはいっても、誰も中国を止められないよな…」。こう思っている読者さんは、多いようです。

確かに、仲裁裁判所の判決が出ても中国の行動は何もかわりません。相変わらず、南シナ海の埋め立てをつづけ、軍事拠点化していくことでしょう。仲裁裁判所の判決には「拘束力がある」といいますが、判決を「執行させるメカニズム」がない。ですから、中国がいままでどおりの行動をつづけることは明らかです。

そして、「中国は、核兵器大国なので、アメリカも止められない」というのも、説得力があります。

では、どうやって中国を止めることができるのでしょうか?

情報戦からはじまる戦争

日本人は戦争というと、兵士、戦闘機、戦車、戦艦などが撃ち合いするイメージしかありません。これは大問題です。正直いうと、戦争は、「撃ち合い」のずっと前からはじまっているのです。

何からはじまるかというと、「情報戦」から。情報戦の目的は、第1に、「自国民に、敵国は『悪魔のような国』である」と信じさせる。なぜかというと、いざ戦闘が開始されたときに、世論が戦争の邪魔をしないようにする

第2に、「他の国々に、敵国は『悪魔のような国』である」と信じさせる。これは、いざ戦闘がはじまったとき、「敵国に味方する国が一国もいないようにする」ためです。

例を見てみましょう。まず、日本がらみ。1930年代はじめ、日本と中国は、「満州問題」でもめていました。中国はこの時、「日本には、『田中メモリアルという世界征服計画』があるのだ」と大々的にプロパガンダします。その「世界征服計画」(=田中メモリアル)には、

  1. シナを征服するためには、まず満蒙を征服しなければならない
  2. 世界を支配するためには、まずシナを征服しなければならない

とあった(偽書です)。中国は、「日本が満州を支配したのは、世界征服の第1歩である! 田中メモリアルが、その証拠です!」と大宣伝し、信じさせることに成功したのです(!)。「情報戦で敗れた日本は、「国際連盟」を脱退し、「世界の孤児」になってしまいました。

今の世界をみわたすとどうでしょうか? 世界では、「プーチンは悪魔のような男だ!」いうプロパガンダが盛んです。イギリスが中心になって行っている。これも、「情報戦」です。

では、アメリカは、中国に対し情報戦を行っているのでしょうか?2015年3月の「AIIB事件」以降、ボチボチはじまっています。しかし、「中国経済は相当ヤバい!」というプロパガンダに集中しているようです。これを私は、「経済情報戦」と呼んでいます。

東芝や三菱自動車の汚職が明らかになれば、株価は下がるでしょう? これは、事実が情報として出てきて、株価に影響を与えた。しかし、あるマスコミが、「〇〇社はヤバいらしい」と書けば、根拠はあまりなくても、やはり株価は下がります。これは、情報が事実株価下落をつくったのです。

アメリカは、昨年から熱心に経済情報戦を仕掛け、結果中国経済はボロボロになってきています。とはいえ、アメリカ大統領が変われば、また変化があるかもしれません。そういう意味で、米大統領選はとても大事です。

経済戦

情報戦の次に来るのが、「経済戦」です。皆さんご存知のように、アメリカは、「ABCD包囲網」を主導しました。これで日本に石油が入ってこなくなった。日本は当時、石油の約90%を輸入に頼り、しかもそのうち約80%をアメリカから買っていたのです。これがいわゆる「経済戦」の例です。

アメリカは、「クリミア併合」後、「対ロシア経済制裁」を主導しています。日本、アメリカ、欧州、オーストラリアなどがロシアを制裁している。

アメリカが、世界第2の経済大国中国を経済制裁する? 現時点では、あまり考えられません。中国は、日本と1、2を争う「米国債保有国」(債権国)でもある。

しかし、何か大きな事件があれば、経済制裁に踏み切る可能性もあります。こう書くと、「そんなわけはない! 経済的損失が大きすぎる!」と反論がきます。しかし、安全保障は経済より大事なのです。これは、「命(安全保障)と金(経済)どっちが大事ですか?」という質問です。普段命のことを考えないので、「金が一番大事」と思っている。しかし、命のことを意識した途端に、「金より命が大事」となります。銀行も、「命の次に大事な物(=金)をお預かりしています」などといいますね。実際、欧州は、莫大な経済的損失を出しながら、対ロシア制裁をつづけている。これは、「金がすべて」という価値観とまったく矛盾しています。

ちなみに、世界一の戦略家ルトワックさんは、「核大国中国と全面戦争することはできないので、『地経学的』手段をとるしかない」といっています。

われわれに唯一残された抵抗手段は「地経学的」なものである。これは戦略の「論理」を、経済の「文法」に適用したものだ。
(『自滅する中国』 p338)

代理戦争

今の世界には、二つの超大国があります。アメリカ中国です。アメリカは、GDPと軍事力で世界一。中国は、GDPと軍事費で世界2位。本質は、「米中の覇権争奪戦」なのですが、お互い核兵器大国。それで、本音では、「戦争なんてしたくない」と思っている。では、どうするか?

他の国に戦わせよう!」

これを、「バックパッシング」(責任転嫁)といいます。たとえば、米ソ冷戦時代。アメリカとソ連は、直接戦いませんでしたが、「代理戦争」はあちこちでしていました。中国で、朝鮮半島で、ベトナムで、アフガニスタンで…。

今も同じようなことが起こっています。アメリカの傀儡国家だったジョージアは08年8月、ロシアと戦争し、大敗北しました。ロシア、イランから支援を受けるシリア・アサド政権は、欧米から支援を受ける「反アサド派」と激しい戦いを繰り広げました。アメリカの傀儡国家になったウクライナ新政府は14年、東部親ロシア派と激しく戦いました。これらは、「現代の代理戦争」の例です。

問題は、「アメリカが覇権を維持するために、日本と中国を戦わせる可能性がある」ことです。日本はアメリカの動きをよく観察し、「アメリカなしの日中戦争」を断固回避しなければなりません。日本が目指すのは、あくまで「アメリカを中心とする中国包囲網」の形成です。日本が主人公になっては決していけないのです。

結局、どうやって中国をとめるの?

Iさんのご質問に回答するべきですね。まず、南シナ海の埋め立てや軍事拠点化を、実際にとめることはできません。しかし、中国が今後も、国際法、国際秩序を無視するような行動をつづければ、孤立が深まり、ある時点でアメリカが本気になるでしょう。(実をいうと、2015年3月のAIIB事件以降、オバマさんは本気になり、かなり成果をあげています。しかし、任期切れが迫ったオバマさんの影響力は衰えているので、中国バッシングの勢いが衰えている)。

実際に何が起こるかというと、

  1. 情報戦で、中国を「悪魔化」させ、「孤立」させる
  2. 経済情報戦で、中国経済を破壊する(これは、すでにおこなわれているようです)
    もし、中国が「暴発」すれば
  3. 対中国経済制裁(親中国になっている欧州が参加するかがカギ)

そして、最終手段が「戦争」ということになりますが、なんらかのきっかけで「米中戦争」が起こる可能性も否定できません。「核大国同士の戦争はない」といいますが、「核大国同士の戦争は、結局通常兵器同士の戦争になる」ともいいます。なぜかというと、両国とも核兵器を使えないから。

日本はどうするべきか?

日本は、「平和ボケ」することなく、恐れすぎることなく、「適切な対応」をしていく必要があります。

まず、「中国は何を狙っているのか?」をはっきり知っておきましょう。第1に尖閣第2に沖縄。実際、中国は、「日本には尖閣ばかりか沖縄の領有権もない!」と宣言しています。証拠はこちら。

反日統一共同戦線を呼びかける中国

しかし、実際に「戦闘」に発展する可能性があるのは、今のところ「尖閣だけ」です。ですから、日本は「人民解放軍が尖閣に上陸したら、即座に駆逐する準備」をしておかなければなりません。

ルトワックさんも言っていますが、「まずアメリカと相談して」とか、「まずは国連安保理に」などとグズグズしていれば、尖閣は永遠に中国のものになってしまいます(ウクライナは、そうやってクリミアを永遠に失った)。そうなれば、次は沖縄が視野に入ってきます。

日本が考えるべきことは、「自力で断固として尖閣を守ること」(人民解放軍が上陸したら、即日駆逐するべきです)。

そして、誰が大統領になっても、アメリカとの関係をますます強化していく。確かにアメリカの力は弱まっていますが、「尖閣を侵略したら、アメリカが出てくるかもしれない」と中国が信じているうちは、何もできません。

さらに、将来中国と並ぶ超大国になるのが確実なインド、同じ懸念を共有するベトナムフィリピンその他の東南アジア諸国オーストラリアなどの関係をますます強めていきましょう。

日本国民は中国をとても怖がっていますが、「悪いのは仲裁裁判所だ!」と叫び、孤立にばく進している国は怖くありません。

怖いのはむしろ、「日本が孤立する」、あるいは「日本が孤立させられる」ことです。そして、ある国が「孤立する」理由は、いつも決まっています。「民族主義的になるとき」そんなわけで、安倍総理には、くれぐれも「抑制的」であって欲しいと思います。

image by: Wikimedia Commons

 

ロシア政治経済ジャーナル
著者/北野幸伯
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