Aさんはカバンや買い物の品をその場に忘れたことに気がついた。そこで警察に相談に行ったが、水着を返さなければいけないというアドバイスをもらった。
同行を頼んだが、そういうのはやっていないと言われてしまい途方に暮れていたところ、幾つかの団体を窓口の警官が紹介し結果、私のところに相談が入った。
私は保護者とも連絡を取り、その事務所に向かった。
社長だという人物は名刺も差し出すことはなく、彼女らと同行した母親に”撮影代を賠償してほしい。”と凄んできた。
それは、それこそ闇金のそれに似た慣れた感じの追い込みであった。
「家も連絡先も知っているぞ。」
「写真をネットに掲載してもいいのか?」
「水着を盗んだのは犯罪だろ!」
「親なら責任を取るのが筋だろ!」
脅し方はいくつでもある。
想像してほしい。
仮にあなたが、この親の立場であったら、どう対処するのか?
相手は凄みのある脅しを淡々と続けることができ、慣れた様子で、交渉を進めようとするのだ。
金さえ払えば、解放される、そう思うのではないだろうか。
しかも、この場はAさんの母親一人である。
もちろん、私もいるが、彼らは私には一切目もくれない。
タイミングを私が見誤れば、こう来ることはわかっている。
”お前が責任取るのか!!”
”責任取らないなら、黙ってろ!!”
ちなみに私はこの場で秘密録音と秘密撮影をしている。
できれば、もっと凄んでもらい、誰もが心証を悪く持ってもらいたいと本音では思っている。
また、この手の相手には慣れ過ぎてしまっていて、アクビが出そうなのを必死でこらえている。
母親にもA子さんにも、そういう作業も横でしているので、合図をするまで助けを求めないでくださいねとは、断りを入れている。
彼らの事務所の外には、T.I.U.総合探偵社のスタッフが1名のみ車で張り付き、通話状態になっている携帯電話の音声を聞いて待機している。何かあれば、すぐに通報、脱出の手助けをすることになっている。
そろそろ良いだろう。
社長と名乗る男が、脅し疲れてタバコに火をつけたところで、私は母親に合図をした。
しかし、彼女は頭が真っ白になっていて、何を言うのか忘れてしまっていたらしい。
”契約を取り消します。”
未成年者の保護者は、未成年者がした契約を取り消すことができる。これは法律の話。
とりあえず、その意思は伝えてもらわなければ、何も始まらない。
A子さんらに水着を返させる代わりに、データの削除と目の前で契約書を破棄するように私から話をした。
社長と名乗る男の筋が切れるような、そんな表情であったが、ここから先でゴネるようなら、流石の警察も動くんじゃないかという話をすると、彼は私の提案に応じたのだ。
ほとんど投げやりな感じで、この男はその場から去ってしまった。