戦争はなぜ起こるのか? 意外なところにあった「究極の原因」

 

次いで、「言葉」と「アイデンティティ」は後回しにして、「過剰な愛」について。人間ほど「過剰な愛」を持っている動物はいない。愛する者を殺された人の心に芽生えるのは復讐心である。ライオンの群れ(プライドと呼ばれる)は、1頭から数頭の成熟オス、10頭前後のメスと幼獣からなるが、成熟オスが老いぼれてくると、若いオスに群れを乗っ取られてしまう。群れを乗っ取ったオスはまず、群れの幼獣を皆殺しにする。メスは子供を産んだ後、2年間は発情しないため、幼獣がいると、乗っ取ったオスはその間自分の子を作れないのだ。幼獣を殺されたメスは、しばらくすると発情し、自分の子供を殺したオスと交尾して、110日後には通常4頭の赤ちゃんを産むのである。ライオンには愛する子供を殺された後に復讐心は生じないようだ。というよりも人間と同じような「愛する」という感情はないのかもしれない。

しかし、人間は違う。愛する者を殺された人は時に復讐の鬼と化し、場合によっては自分の命と引き換えに、復讐を遂げようとする。アメリカがいくらIS(イスラム国)を掃討しようとしてもイスラム教徒を皆殺しにしない限りテロはなくならないだろう。愛する者を殺された人の復讐心を消すことは不可能だからだ。テロで殺された人の家族もまたテロ組織を憎み、かくして復讐のスパイラルは回り続ける。この悪循環を断ち切るのは、強者の寛容以外にはないのだが、権力は人々の復讐心を権力への求心力に変えて政権を維持しようとすることが多く、テロの後には必ず、報復という話になり、テロはさらに拡大再生産されることになる。

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