【書評】「21世紀の原理」に移行しない株式会社はすべて無くなる

 

さっそく、ポイントをチェックしてみましょう。

従来、「株価」と「利子率(金利)」はどちらも、景気の尺度でした。企業利益の増加は雇用者所得の増加を伴っていたからです。ところが、21世紀になると、この関係が断ち切られ、雇用者所得が減ろうが減るまいが利益だけが増加するようになって、「株価」はいわば「資本帝国」のパフォーマンスを表す尺度へと大きく変貌しました

資本を含めたあらゆる蒐集は必ず「過剰、飽満、過多」に行きつきます。蒐集の尺度である利子率がマイナスになったということは、いよいよその限界が近いことの表れです

資本蓄積を表す自己資本利益率(ROE=1株当たり最終利益/1株当たり自己資本×100)は2001年度をボトムに上昇傾向に転じたのに対して、家計の純資産蓄積率(純貯蓄/個人金融資産×100)は21世紀に入って、いっそう低下傾向を強めていきました

21世紀になると、資本家がヒト、モノ、おカネを国境を自由に超えて移せる手段を手にしたことで、株価は世界の企業利益を映す鏡となり、利子率は国境で分断された国民の所得を映すようになった

限界労働分配率が1.0を大きく、しかも長期間にわたって下回るというのは、労働の成果を認めないということにほかなりません。近代の理念に対する資本の反逆なのです

「稼ぐ力」は国民があれもこれもほしいといっている場合には必要ですが、モノ余りになったときに必要とされるのは、「何が適正なのか、それを考える力」です

◆アダム・スミスが株式会社に批判的で、パートナーシップに好意的だった理由

  1. 民間のパートナーシップでは、パートナーは他のパートナー全員の同意を得ないかぎり、他人に自分の持ち分を譲渡することができず、他人を参加させることはできない。(中略)これに対して株式会社では、株主は(中略)他人に株式を譲渡して、その人を新しい株主にすることができる
  2. パートナーシップが無限責任を負うのに対して、株式会社は有限責任(中略)取締役は、自分の資金ではなく、他人の金を管理しているので、パートナーがパートナーシップの資金を管理する際によくみられるような熱心さで会社の資金を管理するとは期待できない

近年のイノベーションの多くは、「公共財」でなく「私的財」の性格を帯びて」おり、「今日のイノベーションは得てして、経済的・政治的な既得権を強化し、(中略)万人が用いるのではなく一部の人しか用いない商品を生み出している」(タイラー・コーエン『大停滞』のなかで紹介されたジョナサン・ヒューブナーの研究)

21世紀の原理は、「よりゆっくり」、「より近く」、「より寛容に」

なぜ円安・インフレが進まないのか、マイナス金利になるのはなぜなのか、なぜ株価が上がっても一般の人々が豊かさを感じることがないのか、グローバリゼーションとは一体何なのか。これまでの疑問がこの一冊で一気に解消します。ぜひ読んでみてください。

image by: Shutterstock

 

毎日3分読書革命!土井英司のビジネスブックマラソン
著者はAmazon.co.jp立ち上げに参画した元バイヤー。現在でも、多数のメディアで連載を抱える土井英司が、旬のビジネス書の儲かる「読みどころ」をピンポイント紹介する無料メルマガ。毎日発行。
<<登録はこちら>>

print
いま読まれてます

  • 【書評】「21世紀の原理」に移行しない株式会社はすべて無くなる
    この記事が気に入ったら
    いいね!しよう
    MAG2 NEWSの最新情報をお届け