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米を蹴り中国に寝返るフィリピン大統領、日本はどう迎えるべきか

先日掲載の記事「怒りのフィリピン大統領、中国に『落とし前をつける!』宣言」でもご紹介した通り、南シナ海問題で仲裁裁判所の決定以降も横暴な態度を取り続ける中国に、怒りの声をあげていたフィリピンのドゥテルテ大統領。しかし、ここに来て突然アメリカに「決別宣言」し、対中関係を重視する考えを明らかにしました。無料メルマガ『ロシア政治経済ジャーナル』の著者・北野幸伯さんはこれについて、「中国の戦略勝ち」との見方を示すとともに、訪日するドゥテルテ大統領を日本はどう遇するべきかについて私見を記しています。

グッバイ、アメリカ!!!

フィリピンのお騒がせ大統領ドゥテルテさん。米中の間を揺れ動いていましたが、ついにアメリカに決別宣言」をしました。

「米国にさよなら」 フィリピン大統領、中国への傾斜鮮明に

AFP=時事10月20日(木)10時58分配信

 

【AFP=時事】フィリピンのロドリゴ・ドゥテルテ(Rodrigo Duterte)大統領は19日、訪問先の北京(Beijing)で行ったスピーチで、同盟国である米国に「さよならを言う時が来た」と述べた。大統領はフィリピンの同盟関係の再構築に乗り出している。

ドゥテルテさんは20日、習近平と会い、同じ言葉を繰り返します。

フィリピン大統領、米国との決別を宣言 対中関係重視へ

CNN.co.jp10月21日(金)10時14分配信

 

(CNN) 中国を公式訪問したフィリピンのドゥテルテ大統領は20日、米国とは軍事的にも経済的にも「決別」すると発表した。

 

一方、中国の習近平(シーチンピン)国家主席との会談では、貿易、投資、観光、犯罪麻薬対策など13分野の2国間協定に署名。米国よりも中国との関係を重視する姿勢を鮮明にした。

アメリカとは軍事的にも経済的にも決別」するそうです。そして、中国とは、貿易、投資、観光などの協定に署名した。中国経済もかなりヤバいことになっていますが、それでもフィリピンにとって「チャイナ・マネーは魅力なのでしょう。

もう一つ犯罪麻薬対策。オバマさんは、ドゥテルテが麻薬取締がらみで3,700人も殺したことを強く非難しています。一方、習近平はこの件でドゥテルテを批判しない。だから、居心地がいいのでしょう。

ドゥテルテ大統領は北京で経済界の指導者を前に講演し、「アメリカは負けた。私はあなた方の思想の流れの中に身を置くことにした」と宣言。

 

「多分ロシアにも行ってプーチン大統領と会談し、中国、フィリピン、ロシアの我々3カ国は世界に立ち向かう存在だと告げる」と言い放った。
(同上)

アメリカは負けた!

残念ながら、現状を見ると、そう言いたくなる気持ちもわかります。

領有権問題は、どうなった???

ところで、フィリピン、中国といえば、「領有権問題」があります。その件は、どうなったのでしょうか?

皆さんご存知のように、中国は、「南シナ海は、ほとんど全部俺の物」というトンデモ九段線を主張しています。ところが、仲裁裁判所は7月、明確に中国の主張を否定し、フィリピンを全面的に支持した。仲裁裁判所は、どんな判断を下したのでしょうか? CNN.co.jp7月13日付から。

中国は、海南島の南方から東方にかけて、南シナ海の9割を囲い込む「九段線」という境界線を設定し、資源採掘や人工島造成を行う権利の根拠としている。仲裁裁はこの権利を認めない立場を示した。

 

仲裁裁はまた、中国が人工島から200カイリまでを排他的経済水域(EEZ)としてきた主張に対し、人工島はEEZ設定の根拠にはならないと判断した。

 

さらに、中国は人工島周辺で自然環境を破壊しているとの見方を示した。

これに対し中国は、「悪いのは仲裁裁判所!」「国際法を辱めた!」と猛反発しました。

仲裁判断、中国外交に大打撃 習主席「一切受け入れない」

AFP=時事7月13日(水)10時7分配信

 

【AFP=時事】オランダ・ハーグ(Hague)にある常設仲裁裁判所(PCA)が南シナ海(South China Sea)をめぐる中国の主張には法的根拠がないとの判断を示したことについて、中国の習近平(Xi Jinping)国家主席は、一帯の島々は古来より中国の領土だとして、政府は今回の判断に基づくいかなる行動も受け入れないと述べた。国営の新華社(Xinhua)通信が伝えた。

フィリピンの訴えを受けた裁判で仲裁裁が12日に下した判断は、天然資源も豊富な南シナ海の支配に野心を燃やす中国にとって外交的な大打撃となった。中国政府は真っ向から拒絶しており、中国外務省は同日のうちに「判断は無効で何の拘束力もない」との声明を出した。

新華社によると、中国の在オランダ大使は「きょうはハーグにとって『ブラックチューズデー(黒い火曜日)』になったと批判。判断は「国際法を辱めた」とこき下ろした。

日本、アメリカ、インド、ベトナムなどが、相次いで「判決を歓迎する。中国は守るように!」という声明を出しました。

中国は世界的に孤立していきます。しかし、唯一の救いがありました。フィリピンで大統領が代わった。6月に大統領に就任したドゥテルテさんは、「親中だ!」と言われていたのです。ところが…。

「親中派」だったはずのドゥテルテさん、「アッ」という間に「反中に転向します。なんと、早々に「中国との二国間協議」を拒否したのです。

比大統領「中国と交渉しない」=南シナ海領有権、譲歩せず

時事通信7月19日(火)22時37分配信

 

【マニラ時事】フィリピンのドゥテルテ大統領は19日、米議会代表団とマニラで会談し、南シナ海の領有権問題で中国と交渉する計画はないと明らかにした。大統領は、南シナ海問題をめぐる12日の仲裁裁判所の判決を受け、領有権問題で特使を派遣するなどして中国との対話解決を模索したが、改めて譲歩しない強気の姿勢を示した形だ。

 

会談に参加したクリス・マーフィー米上院議員のツイッターによると、会談でドゥテルテ大統領は南シナ海問題で中国と交渉する計画はないことを表明。また南シナ海の主権に関しては中国と取引せず、フィリピンの全面勝訴に終わった仲裁判決について「交渉の余地はない」と指摘した。

しかし、ドゥテルテさん、今回の訪中でアメリカに決別宣言」した。「領有権問題」については、こんな話になりました。

一方、中国とフィリピンはこれまで南シナ海の領有権をめぐる争いで関係が悪化していたが、ドゥテルテ大統領は領有権問題を棚上げにして、中国との関係強化を模索している。

 

中国国営メディアによると、習主席は北京の人民大会堂でドゥテルテ大統領を出迎え、両国を「海をはさんだ隣国」と形容。2国間関係を全面的に改善させることで合意した。

 

南シナ海については具体的な協定は交わさなかったが、中国の劉振民外務次官によれば、この問題には対話を通じて対応することで合意したという。
(10月21日 CNN.co.jp)

仲裁裁判所は、「フィリピンの主張が正しい」と判決を出した。しかし、中国とフィリピンは、「棚上げで合意。これは、中国の大きな勝利といえるでしょう。

フィリピン取り込みは、中国の戦略的勝利

ドゥテルテさんは、話がコロコロ変わります。しかし、このまま親中反米路線を続ければ中国の戦略勝利」になります。どういうことでしょうか?

中国から見ると、東から西に向かって、アメリカの味方に封じ込められている。地図を見ると、韓国、日本、台湾、フィリピンと繋がっています。最近は、ベトナムもアメリカ寄りになってきた。

南シナ海、東シナ海からアメリカを追い出し、アジアにおける中国の覇権を確立するためには、韓国、日本、台湾、フィリピンを、中国側に引き寄せることが必要なのです。今回、中国は、フィリピンを引き寄せることに成功した。

とはいえ、08年以降、世界中の国々が、「アメリカにつくのがお得かな? 中国につくのがお得かな?と揺れています。日本も小鳩政権の時、アメリカを捨てて中国につこうとした。しかし、安倍さんになってから、アメリカに戻りました。

韓国も、朴さんは、明らかに親中反米だった。しかし、「中国は、北朝鮮から韓国を守る気がない」ことがわかりアメリカの方に戻った。台湾も、馬総統の時代(08年~16年5月)は、親中でした。しかし、蔡英文総統になって反中に揺れています。こう見ると、フィリピンもどうなるかわからないですね。

ドゥテルテさん、間もなく訪日されるそうです。日本は、中国の悪口を言ったり説教したりせず温かく迎えることに徹するべきなのでしょう。道徳的にも、人権面でも大いに問題のある人ですが、地政学的戦略的に重要な国のトップなのですから。

 

ロシア政治経済ジャーナル
著者/北野幸伯
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