真田丸『第46話』解説。淀殿は本当に豊臣家滅亡の戦犯だったのか?

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NHK大河ドラマ『真田丸』を放送直後にワンポイント解説する人気連載シリーズ。今回は、乱世を生き抜いた女性・淀殿について。幼い頃、信長の命で、後に人生をともにする秀吉の手によって兄を処刑され、深い心の傷を負ったものの、秀吉の側室となってからは辛い境遇をものともせず、その立場を逆手にとって強く生きた淀殿。大坂城が家康の大砲によって大破し、侍女たちが死傷したのを見て戦意を失ったという通説は、果たして本当なのでしょうか?

今回のワンポイント解説(11月20日)

大坂城が一向に攻略できないことに業を煮やした家康は、イギリス人から仕入れた高性能の大砲を撃ち込み、これに恐怖した淀殿が和睦を決意した、ということになっている。通説では。でも、 僕はこの通説そのものにちょっと疑問を抱いている

何発かの砲弾が天守や本丸に着弾し、淀殿の侍女らが死傷したのは事実であろう。でも、それがはたして大坂方の戦意を決定的に挫いたのか、どうか。淀殿は、乱世を生き抜いてきた女性である。幼時から2度の落城を経験し、肉親の死を間近に見て育ってきた。現代ならまちがいなく決定的なトラウマを生ずる体験だが、戦国時代の女性としたら、決して珍しい体験ではない。

しかも彼女は、2度とも親の敵だった秀吉に戦利品として扱われ、逆にその立場を利用して女性として天下を取ることに成功したわけだ。砲弾が飛んできて侍女が死んだくらいで、戦意を失うようなメンタルの持ち主だったのだろうか。

砲撃の件を含め、大坂の陣と豊臣家滅亡の通説的な「物語」では、淀殿が決定的な戦犯となっている。徳川方との政治的妥協を拒んだのも、砲撃に恐怖して和睦を申し出たのも、秀頼を最後まで城外に出陣させなかったのも、彼女の判断だ。つまり、愚かな女が政治や戦略の主導権を握っていたから豊臣家は滅びた、というわけ。でも、これって、氏真がバカだったから今川は滅んだ、遠江を侵略した徳川は悪くない、というのと同じロジックではなかろうか?

もう一つ。天守を目標にした砲撃が決定的な効果を発揮したのなら、天守を建てるのは不利という戦訓を、諸大名が共有したはずだ。第1次大戦の後で、列強が巡洋戦艦を建造しなくなるようにね。しかし実際には、大坂の陣の後も巨大な天守は続々と建造されている。これは、「砲撃は有効だが決定打にはならない」という戦訓が共有されたからではないの?

まあ、このあたりの問題は、学術レベルでは今後の検証にゆだねるべきだろう。ただ、個人的には見てみたい。強くしたたかな淀殿が主人公の大河ドラマを。タイトルは、そうだなあ、「茶々の城」。 (西股総生)

今週のワンポイントイラスト

ベテランなの? セクシーなの? どっちの淀殿が好きなの? (みかめ)

 

文・絵/TEAM ナワバリング(西股総生・みかめゆきよみ)

ナワバリスト(城郭研究家)の西股総生率いる、お城(主に山の城)と縄張りを愛する3人組

 

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