真田丸『第49話』裏解説。戦国軍事考証的に見た「夏の陣」の敗因

unnamed
 

NHK大河ドラマ『真田丸』を放送直後にワンポイント解説する人気連載シリーズ。今回は、真田丸が壊され、防御する櫓や塀を失い、見ての通り「ハダカ城」になってしまった大坂城について。著者の西股総生さんは、幸村たちにとって一番の痛手は、城の守りを失ったことではなく、戦いでイニシアティブを握るために大切な戦術の「選択肢」が減ってしまったことだと指摘。一体どういうことなのでしょうか…?

今回のワンポイント解説(12月11日)

徳川方との和睦により、真田丸は破却され、大坂城は中心部だけのハダカ城の状態で、夏の陣を戦うことになった。今回は、この「ハダカ城」の意味を考えてみたい。

そもそも城とは守りやすく攻めにくい地形を利用して築くものだ。よって、城の中枢部が置かれる場所は、地形的にまとまりがよい。これに対して惣構は、広い範囲を取り込むことになるから、地形的なまとまりはバラける。ただし、惣構のラインそのものは、やはり守りやすい場所を選んで引いてゆくから、惣構の外側にはバリエーションのある地形が広がることになる。出丸も同じ。

一方で、城というものは、守ってばかりでは勝つことができない。相手が攻撃に失敗して総崩れになるか、兵粮不足などで攻囲をあきらめてくれれば勝つことはできるけれど、それは城側が決められることではない。つまり、城側のイニシアティブではつかみ取れない勝利条件、ということだ。 城側がイニシアティブを握って勝つためには、機に乗じて逆襲を仕掛け攻め手を総崩れに追いこむ必要がある。

このセオリーと、さきほどの惣構&出丸のセオリーを組み合わせて考えてみよう。いろいろな地形が広がるギリギリ手前の、守りやすい場所を選んで惣構や出丸を築けば、城側がイニシアティブを握って戦うための、戦術上のオプションが増えることになる。

敵を攻め疲れさせながら、周囲の地形をうまく利用して逆襲を仕掛けたり、あるいは積極的に打って出て、ヒットアンドアウェイ(一撃離脱)戦法で敵をたたいたり、といった具合だ。しかも、仮に惣構の一部に敵が侵入しても、それだけでは致命傷にはならないから、大胆な戦術もとりやすい。

ところが、「ハダカ城」になってしまうと、城の中枢部はなまじ守りやすい(まとまりのよい)地形であるがゆえに、とれる戦術も限られてしまう。城から積極的に出撃して野戦で敵をたたくか、亀のように籠もって戦うか、どちらかしか選べないのだ。

おわかりだろうか。和睦によって真田丸と城の外周部を破却したことによって、豊臣方が失ったのは、大坂城の防禦力だけではなかった。もっとも痛手だったのは、戦いでイニシアティブを握るために大切な戦術上のオプションを失ったことだったのである。 さて、今回は皆さんラストシーンで、きりに泣かされたと思うが、次回はいよいよ、泣いても笑ってもの最終回!(西股総生)

今週のワンポイントイラスト

幸村ときり。思えば長い付き合いでした。当初はうざがられたきりも、最後は立派なパートナーに。 「俺も長い付き合いなのに…(by佐助)」(みかめ)

 

文・絵/TEAM ナワバリング(西股総生・みかめゆきよみ)

ナワバリスト(城郭研究家)の西股総生率いる、お城(主に山の城)と縄張りを愛する3人組

 

メルマガ『TEAMナワバリングの『真田丸』ワンポイント講座

本メルマガでは大河ドラマ『真田丸』戦国軍事考証を担当する西股先生によるワンポイント講座を中心に、書籍、イベント活動などの情報を発信します。
《ご登録はこちらから》

Facebook

twitter

blog 人生竪堀 TEAM ナワバリングの不活発日誌

 

★★★TEAM ナワバリング新刊情報★★★

【北条五代百年を描く4コマ大河ギャグまんが】

北条太平記

発行:桜雲社 定価:本体 1,200 円(税別)  A5 判 184 ページ

★イベント情報★

 

◎12 月 23 日(金) トークイベント「信繁と幸村の2016 年をふり返る」

第 1 部「今こそ語りたい第2次上田合戦と大坂の陣」…西股総生

第 2 部「サブカルで楽しむ歴史とドラマ」…西股総生・みかめゆきよみ・磯部深雪(予定)

日時 :12月23日(金) 14:00~15:00/15:30~17:00

場所 : 新宿クラブツーリズム(西新宿駅前・新宿アイランドウィングビル)

コース番号 
第1部 C2021-912 入場料 1,000 円 

第2部 C2022-990 入場料 500 円

◎1月15日(日) クラブツーリズム 小倉城(埼玉県)~日帰り現地集合・現地解散

戦国の石積みで知られる小倉城ですが、占地と縄張りの意味を読み解きながら、いつ・誰がこの場所に城を築いたのか、考えます。山歩きのできる靴と服装でご参加下さい。

旅行代金 5,500 円

コース番号 03339-098 でお問い合わせ下さい

★『図解・戦国の城がいちばんよくわかる本』 KK ベストセラーズから発売中 

★『復元イラストで見る「東国の城」の進化と歴史』河出書房新社から発売中

★『真田丸』がより一層楽しめる4コマ漫画、『ふぅ〜ん、真田丸』発売中

今週の『真田丸』SNS反応【編集部まとめ】

print
いま読まれてます

  • 真田丸『第49話』裏解説。戦国軍事考証的に見た「夏の陣」の敗因
    この記事が気に入ったら
    いいね!しよう
    MAG2 NEWSの最新情報をお届け