真田丸『最終回』解説。死して400年後も視聴者を翻弄した真田の生き様

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今までみなさんに絶大な支持をいただいた、NHK大河ドラマ『真田丸』を放送直後にワンポイント解説する人気連載ですが、いよいよ最終回となりました。大河史上稀に見る傑作と、歴史ファンからも賞賛を浴びた『真田丸』は、いかにして誕生したのでしょうか? そして2年以上にわたって、このドラマに「戦国軍事考証」という重要なご意見番として携わってきた西股総生さんは、どのような思いで『真田丸』を見つめてきたのでしょうか?

今回のワンポイント解説(12月18日)

これでとうとう最終回なのだけど、僕は道明寺や天王寺口の戦いについて、分析・論評を加える気にはなれない。家康の和議に乗って大坂城の外周部を破却したのちに再戦に及んだ時点で、豊臣方の戦略は破綻したからだ。戦略の失敗を戦術で取り戻すことはできないのが、戦いのセオリーというものである。 そこから先は、不可測性と流動性が支配する世界で、ただひたすら死闘あるのみ。無論、一発逆転の可能性もゼロではなかったが、大穴を狙ってバクチを打つようなものだ。

なので、最後に『真田丸全体に対する僕の感想を書きとどめておきたい。まず、僕はかねがね、大河ドラマには適度なホラ話感が不可欠だと考えている。この点については、『真田丸』は申し分ない。出浦昌相や佐助の繰り出す、思わず笑ってしまうような忍術が、史実をベースとしたシリアスなドラマの中に、違和感なく組み込まれているホラ話感は、最高である。

次に、登場人物の全員がきちんとキャラ立ちしていた点を、高く評価したい。これは、三谷マジック以外の何物でもなかろう。僕の実感としては、今年の大河は女子ウケがよかった印象がある(女子とばかり話していたから? 笑)。でも、女子ウケがよかったのは、イケメン俳優を並べたからではなく、キャラをきちんと描けていたから。NHK には、このことを理解してほしいと思う。

わけても、僕の印象に残った人物はきり。これまでの大河には登場しなかった画期的なキャラだが、彼女が活躍できたのは、側室という存在を公に認めたからでもある。主人公を爽やかな英雄として描こうとすると、きりのような等身大の女性は登場できないのだ。この点は、『真田丸』の登場人物たちが、単純な善人としても、悪人としても描かれていないゆえにキャラ立ちしていたことと、深くかかわる。

僕自身が携わった、城や合戦シーンについて言うなら、今までの大河とひと味ちがうシーンを提供できた、という一定の自負はある。でも、もう少し何とかしたかった要素が残るのも事実。たとえば、 城のCG やセットにはその城らしさを表す要素がもう少しほしかった。これは、今後の課題だろう。 というより、『真田丸』の成功によって、戦国大河に対する視聴者特に歴史ファンの要求水準が上がってしまった、と見るべきだろう。この現実に、皆さまの NHK がどう向き合ってゆくのか、お手並み拝見と行きたいものだ…。

ちなみに、僕は考証陣の中でも、拘束時間が比較的短くて楽な方だったと思う。でも、これだけボリュームのあるドラマに関わるというのは、精神的な拘束度合いが思いのほか強く、僕のキャパでは正直しんどかった。もう一度やってくれと言われても、ちょっと勇気が出ない(笑)。

それにしても、真田信繁という人物。事績はよくわからないのに、つい、彼について語りたくなったり、彼の物語を紡いでみたいと思わせる、何かを持っている。それも、リアリティのある物語を。そうしてNHKも三谷さんも、出演陣も、考証陣も、そして視聴者も、この一年、「信繁と幸村に翻弄されてきたのだ。なるほど。死して400年ののちまで人々を翻弄してやまない「日の本一の兵」こそ、 恐るべしである。

ごあいさつ

最終回なので、ごあいさつを。

僕(西股)が、NHK から最初にお声がけをいただいたのは、一昨年の夏のこと。丸島和洋さんのご推挙によるものだった。その時点で決まっていたのは、タイトルが『真田丸』、脚本が三谷幸喜さん、主演が堺雅人さん、というくらいの事。丸島さんと局に呼ばれて、プロデューサーさんや主だったスタッフさんたちとのブレーンストーミングに臨んだあと、渋谷までの道すがら「ずいぶん厳しい箝口令を敷かれたものですね」などと、丸島さんと話していたのが、つい昨日のことのようにも、遠い昔のようにも感じられる。

それから、いろいろな事があったけれど、思えば丸々2年以上もこのドラマに関わってきた事になる。最後の台本をチェックし終えたときは、肩の荷が下りてホッとしたような、淋しいような、何ともいえない気持ちがこみ上げてきて、しばらくは放心状態だった。ただ、間違いなくいえるのは、『真田丸は大河ドラマ史上屈指の傑作として歴史ファンの皆さんに語り継がれるだろう、ということ。 この仕事に携わることができて、本当に光栄だったと思う。

この「ワンポイント解説」は、番組作りに関わっている立場から、『真田丸を皆さんにより深く楽しんでいただきたくて始めたものだ。ただ、僕は「ドラマではこうでしたが、史実はこうでした」みたいな細かな話は、あまり書かないように心がけてきた。なぜなら、僕は真田の専門家でもなければ、大坂の陣を研究しているわけでもないから。あくまで、城や合戦に詳しい人という立場から、一般論として制作側にアドバイスをするのが、僕の仕事。それに、細かな史実の補足などは、時代考証にあたっている丸島和洋さん・黒田基樹さん・平山 優さんが、ネット上や講演など、いろいろな場で説明してくれるだろう。だったら、そこは彼らにお任せするのが筋というものだ。

かわりに僕は、ドラマの背景になっている時代の雰囲気や社会の仕組み戦いの原理みたいなものを説明することにつとめてきた。また、僕自身は文章を書くことしか能のない人間だが、さいわい、みかめゆきよみさんの秀逸な1コママンガと、野澤由香さんの適切なサイト管理のおかけで、 皆さんがドラマを楽しむためのお手伝いができたかと思う。 というわけで、一年間「今週のワンポイント解説」をご愛読いただきまして、本当にありがとうございました。(西股総生)

今週のワンポイントイラスト

あっぱれ真田、日本一の兵! 死して四〇〇年後…いやもっと先まで人々を翻弄し続けるでしょう! 1年間ワンポイント1コマにお付き合いいただきありがとうございました。(みかめ)

 

文・絵/TEAM ナワバリング(西股総生・みかめゆきよみ)

ナワバリスト(城郭研究家)の西股総生率いる、お城(主に山の城)と縄張りを愛する3人組

 

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約1年間ご愛読ありがとうございました。全50回分の裏解説がありますので、気になる方はそちらもよろしくお願いします。(MAG2 NEWS編集部)

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