一泊3万円も。アパホテルの異常な収益率を叩き出す2つのカラクリ

 

アパホテルに死角はないのか?

さて、これまでは順調に拡大路線を突き進むアパホテルの背景をお伝えしてきましたが、果たして死角はないのでしょうか?

まず、心配なのは資金面です。

2016年1月4日付の日経新聞で代表の元谷氏は取材に対して「(総資産は)2,000億円から2,500億円程度ある。借り入れは1,000億円程度だ」と答えています。一方、2015年度のアパグループの売り上げは900億円なので、年間売り上げを大幅に上回る借入残高があることがわかります。

現状のように業績が堅調な場合は問題にならないでしょうが、2020年の訪日外国人4,000万人という数字を基に客室数を拡大し続ければ、東京オリンピック後の反動減で客室の稼働率が一気に下がり経営が急速に傾くことも十分に考えられます。

事実、過去にウィークリーマンションの草分け的な存在で最大手だった「ウィークリーマンションツカサ」は、ブームに乗って拡大路線をひた走るも、バブル経済の崩壊で景気が冷え込むと業績が急速に悪化。過大な借り入れがたたって、最終的には倒産の憂き目に遭いました。

今は好調な需要を背景に拡大路線をばく進するアパホテルもウィークリーマンションツカサと同じ轍を踏まない保証はありません。

ただ、アパホテルの元谷代表は2020年以降に繰り広げられるビジネスホテルの激しい生き残り競争もすでに見越していると豪語します。その際には、利益率の低いホテルの撤退が相次ぐと見て、逆に買収などによって勢力を更に拡大するチャンスと虎視眈々と狙っているのです。

また、人材面も死角となりえるでしょう。

アパホテルは急拡大を続けていますが、問題となるのは各ホテルの支配人です。特にアパホテルでは、お伝えしたように状況に応じて臨機応変に支配人が部屋の価格を決定するなど、大きな裁量が与えられています。この各ホテルの支配人の能力が、アパホテル全体の売り上げ極大化の鍵を握っているのです。ただ、このような優れたスキルを持つ人財を育成するのは一朝一夕にはいかず、適切な人財が不足しているのが現状なのではないでしょうか。

今後更なる拡大を図るうえで、人財不足は成長の足かせとなりかねないことを考えれば社内で育てることはもちろんですが、即戦力を同業からヘッドハンティングするなど、あらゆる手段を使って確保する必要があるでしょう。

光が強ければ、影もまた濃くなります。

現状、アパホテルは順調に成長しているように外からは見えますが、急成長の歪みが必ずや内部の至る所で噴出しているはずです。これらの次々と浮かび上がってくる課題や問題をうまくコントロールしながら、ホテル業界の頂点に無事上り詰めることができるのか?

ワンマン経営の企業だけに、代表の手腕にすべてが託されているといっても過言ではないでしょう。

image by: Wikimedia Commons

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