冒頭でトランプ大統領の指摘の一部を認めたニューヨークタイムズが、同じ紙面で新大統領が「海外からの経済進出にアメリカの労働者が職を奪われている」と指摘していることで、面白い反論を載せています。
中国の安価な輸入品でアメリカの労働市場がダメージを受けているというが、アメリカ人が職を失っている最も大きな原因は、技術革新やオートメーション化による工場や職場の合理化にもあると同紙は指摘しているのです。中国のことを指摘すれば、人は単純に頷きますが、アメリカ社会での経済活動の複雑さを地道に指摘する人は、とかく無視されがちです。失業の大きな原因は、アメリカ国内の裕福な人々の利益を優先する姿勢にもよるものだというわけです。
トランプ大統領は、protectという言葉を多用した反面、歴代の大統領が強調した freedom や diversity など、アメリカの価値や理念に関する言葉は一度も使用しませんでした。むしろ、多くの人々が愛国心の元で一つになろうと強く訴えました。これは苛立つアメリカ人の心理の裏返しのように思えます。しかし、こうしたことを訴えることで、逆にアメリカが小さく、精神的に余裕のない国になりつつあるようにすら思えるのです。衰退する「おおらかなアメリカ」の序奏とならないことを祈ります。
今回は民主党の議員の多くが参加をボイコットし、就任後のパレードでもトランプ大統領に反対する人が抗議行動の末200人以上逮捕されるなど、波乱含みの就任式でした。そして、この演説を受けて、軍事と経済でアメリアに大きく関係している日本も今後への影響を考えなければなりません。「アメリカが海外に兵隊を送り、世界が繁栄し、そのためにアメリカが経済的にも苦しんでいる」とトランプが明言していることに注目しましょう。
日米安全保障条約が即時に変化することはありません。でも、今後のアメリカは、国内企業を保護し、統計上の雇用創造を強調するために、日本企業や貿易のあり方、駐留アメリカ軍の負担の課題などで、今までにないビジネスライクな要求をしてくる可能性があるのです。
過去に比べ、世界は人の頭脳のように密に交流し交錯しています。単純には片付けられない現実です。一つの政策が、世界という頭脳全体にダメージを与えることも考えられます。これから、こうしたことがおきないよう注視してゆかなければならないのです。
今年は、アメリカでの大統領就任式に始まって、世界に「自国のプロテクション」の名のもとに、大きなチェーンリアクションがおこるのではと危惧しているのは私だけではないはずです。
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