家畜たちは安堵? 現実味を増してきた「人工肉」の低コスト化

 

狩猟採集生活から農耕民への移行は、結果的に食料を増大させ、それに伴って人口も増大した。野生の動物を捕獲するだけでは肉の需要に追い付かなくなったので、人類は農耕と前後して野生動物の家畜化を行った。最も古く家畜化された動物はイヌと考えられている。その時期は定かではないが、少なくとも2.5万年前には家畜化されていたと思われる。イヌは狩猟用またはペットとして利用され、時には食用にもされた。現代の主な食用家畜であるヒツジブタは1万年前に、ウシは8000年前に、ウマは6000年前に家畜化された。ニワトリに関しては諸説あるが1万年前から6000年前には家畜化されたようだ。

これらの家畜は近年になるまで、最終的には人に食べられるにしても、生まれてから死ぬまでの間、人間と共にそれなりに安楽な生活を営むことができた。私が小さい時、自宅ではニワトリを飼っていたが、ニワトリは放し飼いに近い状態で、卵を取られる代わりに餌をもらって、自由に動きまわり、子供の目には楽しそうに見えた。卵を余り産まなくなると父親が捕まえて殺して食べてしまうのだが、ニワトリは自分の運命を知らないわけで、生きている間はニワトリなりに良い生活だったのではないかと思う。それが一変したのは、養鶏や畜産が産業になったからである。家畜を大量飼育して、なるべく安いコストで、食肉や鶏卵を生産するのが善であるという経済至上主義の波に畜産業もまた巻き込まれたのである。

(中略)

多くの人はこれらの家畜の悲惨な運命に思いを致すことはほとんどなく、ステーキやから揚げを食いながら、動物の命を大切に、などと戯けたことを言っているが、動物愛護の観点からは、このようなやり方で、感情も意思もある高等動物を処遇するのは、誉められた話ではないと私は思う。ただ、工業化された畜産業がないと現代社会は成りゆかないので、家畜たちの悲惨な運命に関しては、思考停止せざるをなくなっているのである。奴隷貿易が盛んだったころ、これを推進していたヨーロッパの知識人たちもまた、多くは奴隷たちの悲惨な運命については、思考停止していたのと似たようなものである。奴隷貿易がなければ自分たちの生活が成りゆかなかったからである。

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