詳しく語ってみます。英語はもともと中部、そして北部ヨーロッパで活動していたゲルマン系の人々の言語にそのルーツがあります。ローマ時代の後期、ゲルマン人がヨーロッパ全土に移動したとき、イギリスにもアングル人、ジュート人、サクソン人といったゲルマン系の人々が住み着きました。5世紀頃のことです。
彼らの言語が古英語と呼ばれ、いわば現在の英語のプラットフォームの役割を担ったのです。古代の英語のプラットフォームに、当時の文明国であるローマからラテン語の語彙が取り込まれます。そして、その後ノルマン人がフランスからイギリスに侵入すると、中世フランス語がさらに取り込まれてゆくのです。
実は11世紀には、イギリスでは上流階級の人々はフランス語を公用語としていました。それが、イギリスがフランスから自立し、独立国家として成長するにしたがって、英語がフランス語にとって変わるようになったのです。したがって、古くからの英語のプラットフォームには、ドイツ語などのゲルマン系の言語のみならず、ラテン語やフランス語の語彙も数多く取り入れられたのです。
つまり、英語はその成り立ちからして国際的な言語だったというわけです。そして、ヨーロッパ各地の言語が流入し成熟した英語は、もともと他の言語よりも比較的シンプルな文法体系を持つ言語として成長したのです。この3番目の理由こそが、英語が国際語として世界に受け入れられてきた隠れた原因なのです。
中国は、古代に東アジアを中国語という言語によって席巻しました。そして現在13億人以上の人々が中国語を話しています。それに対して、英語を母国語とする人は5億人前後なのです。それでも、中国人が海外でコミュニケーションをするときには英語を使います。そしてそのことに中国人自身が違和感を感じていません。
英語はイギリスやアメリカという国籍を超えて、世界の人が違和感なく使用できる唯一の言語となったのです。それは、19世紀から20世紀にイギリスとアメリカによって英語が世界に拡散したことに加え、英語が多国語を取り入れて造られたシンプルで柔軟な言語だったからなのです。
最後に、今後イギリスやアメリカのような、軍事力だけではなく、経済力と指導力を駆使して世界でリーダーシップをとってゆく国家は当分現れそうにないことも特筆します。
英語は、世界が二つの世界大戦の教訓から、ナショナリズムと言語や文化を融合させ他国へ強要することを、世界の多くの人々が忌避するようになる前に、世界言語としての地位を確立したのです。ですから、例えば今になって中国が覇権を唱え、中国語を拡散しようとしても、世界はそれを単なる大国のエゴとしか捉えないはずです。
もちろん、フランス語やドイツ語が英語に変わることはありえないでしょう。ただ、今後、英語はそれぞれの地域や文化の中で新しいスラングや表現を生み出し、多様に変化してゆくことは考えられます。22世紀の共通語はおそらく英語でしょうが、表現方法にはいろいろな変化がみられるかもしれません。
言語は常に進化します。しかし、その根幹としての英語のプラットフォームは今後も世界に共有されてゆくのではないでしょうか。
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