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バブル崩壊も気づかず。日本人が持つべき歴史の転換点を見抜く眼

シャープ、ソニー、東芝など、日本で不動の位置を築いていた一流企業ですら「大規模リストラ」や「外国企業からの買収」などの憂き目をみる昨今、私たちはどのようなことを意識して生きていけば良いのでしょうか? 無料メルマガ『ジャーナリスト嶌信彦「時代を読む」』の著者である嶌信彦さんは、「10年ごとに大きな動乱が起きている」と前置きした上で、そんな時代を生き抜く術を紹介しています。

世界の転換点をいち早く見抜くには? ~時代を読み解く3つの目「虫の目、鳥の目、歴史の目」~

歴史の転換点を見つけることは難しいと思う。特に渦中にあると、これが転換点だと理解することは難しい。だいたい4、5年後、場合によっては10年後にようやく「歴史が変わったのはあの時からだった」と理解できる。しかしながら、早期に感じ取りいち早く対策を実行した企業などが勝者となっている。したがって、転換点を早く見つけることが大事だと思う。

20世紀末尾に9が付く年は大転換期

これまでの経験として、そういった節目はいろいろあった。また、20世紀に入ってから末尾に9のつく年は、大きな転換期だといわれている。

例えば以下の出来事があった

こうやって振り返ってみると10年に1度大きな変動が発生している。89年のソ連崩壊の予兆の中で90年を迎え、ソ連邦は解体、ドイツは統一に向かっていった。

私は89年末に旧ソ連、東欧を2~3週間かけ取材したが、モスクワ駅の裏は闇市のようで、国営マーケットには殆ど品物がなかった。そして、91年にソ連邦が崩壊、東西ドイツが統一するなど大転換が始まった。私は89年末に『1990年・歴史の大転換が始まる─日本と世界、変動の読み方』(PHP研究所)という本を上梓している。

日本経済の繁栄はクタクタ景気

この時期の特徴的な点としては、90年初頭まで日本経済は未曽有の繁栄を遂げていた。しかしながら、これは国民がクタクタになるほど働くことによって支えていたのだ。そして、その後バブルが崩壊した。当時、私は「ちょっとおかしいな」という変化を感じていた。それは、日本の年間の労働時間が2,300時間を超え、アメリカ、イギリスの1,900時間台、フランス、ドイツの1,600時間に比べると異常な高さだったことだ。

日本人は本当によく働き、クタクタになっており、私は当時「クタクタ景気」と名づけたコラムを書いたほどだ。日本人は猛烈に、皆とにかくよく働いていた。

当時の過労死に関する調査によると、残業が月60時間を超す人は残業が月20時間未満の人に比べると、毎日お酒を飲む人あるいは、タバコを30本以上吸う人の割合が1.7倍になるという結果が出ている。また、元日銀総裁の前川氏は「シェア争い、儲け主義を自粛しないと日本は本当にダメになる。労働時間を短縮したユックリズムに徹することが重要だ」と結論づけたレポートを書いていたほどだ。これは「前川レポート」と呼ばれ、そういった転換点を明示していた。

バブル崩壊からの不安な世相

日本にとってバブル崩壊は大きな転換点で、60~90年までは二ケタ成長が当たり前だった。そして、その当時は将来への不安を感ずる人は皆無だった。私は「何とかなる、デスクより現場の空気を吸っていた方が面白い」と思い、87年に毎日新聞を辞めフリーになった。退職した時は本当に景気がよく、先行きに不安はなかった。今だったら本当に辞められたかどうか…。

昨今、多くの人が、不安を抱えている。そういう意味からも人の人生も左右する感じがある。どこで自分が決断するか…企業も皆バブル崩壊を後で気づくわけだが、当時は2~3年でまた昔の活況だった時代に戻るとタカをくくっていた。

89年秋、ヨーロッパの首相級の一人と食事をする機会があった。この方はゴルバチョフ書記長とも会談した経験を持つ人物だ。その際、「世界が不況に陥っている」と思わせる印象的な言葉を聞いた。私が「ゴルバチョフのソ連はどこへ引っ張ってこうとしているのか」と聞くと、その方は「スウェーデン型の社会民主主義的な福祉国家だ。ただ、今のソ連国民が欲しているのは思想より肉、野菜、砂糖、塩、ウォッカ、石鹸、衣料だ。結論からいうとゴルバチョフが成功する可能性は五分五分以下かもしれない。ソ連東欧の中で当面の緊急課題は支援だ。この冬が越せるかどうか飢餓の瀬戸際にあるからだ」と言っていた。その後、実際にアメリカとソ連の首脳会談が行なわれ、西側がゴルバチョフを支援した。そしてソ連は西側経済圏の中に入っていった。

再編の嵐に巻き込まれる日本経済

2000年代に入ると市場経済とグローバル化IT化が加速していった。さらにそれまで銀行、鉄鋼、自動車、家電などが隆盛だった日本も、2000年以降は殆どの業界が再編の嵐に巻き込まれる。中でも、14~15行あった都市銀行が2000年ごろから「みずほ」「三井住友」「三菱東京UFJ」のメガバンク3行に集約。鉄鋼も「日本鋼管」と「川崎製鉄」の「JFEグループ」「新日鉄と住友金属の統合」といった信じられない経営統合が続いた。

家電では一世を風靡したシャープが台湾資本の鴻海(ホンハイ)、三洋がパナソニック傘下ソニーでも2008年に2000億円を超える赤字を計上し「リストラ部屋」に数千人が送り込まれた。ソニーの栄光を知っている人には信じられない光景だった。

ありとあらゆる産業が再編に巻き込まれたわけだが、歴史の転換点に気が付かなかったり、見誤ったりするとそのあとのツケが大きい。日本は農耕民族で、昨日は今日の続き、明日は今日の続きと平穏に続くと思っている。そのため、突然変わることに気が付かない。「3.11」以降は、日常が普通ではなくなってきたということにようやく気が付いたという状態。というのが非常に大きい。

世界の転換点を見抜く重要な3つの目

大動乱時代の今、私は時代を見るのに3つの目が非常に重要だと思う。

この二つはよく言われる。もう一つ私が非常に重要だと考えるのは、

この三つの目(虫の目、鳥の目、歴史の目)を持っていると、世界の転換点を見抜く力がついてくるのではないかと思う。

この「歴史的視点が今の時代には少し欠けている気がする。トランプ政権や日本の政治などをみていてもそうだが、皆、目の前のことに一生懸命になっているように思える。企業は昨今、慌ててM&Aなどに走っているが、慣れていないので失敗も多い。消費者と時代は何を欲しているのかを企業は本気で考えるべきだ。

バブル時代にため込んだ内部留保に甘えている状況である。AI、ロボット、グローバル化、IT時代に人が果たす役割、能力は何かを見つけ出さないと日本はますます遅れてしまうだろう。

●『1990年・歴史の大転換が始まる─日本と世界、変動の読み方』PHP研究所

当時の世界情勢を分析し、予測した本。本放送でご紹介した内容も一部含まれております。ご興味をお持ちの方は合わせてお読みいただけると幸いです。

内容:21世紀まであと10年。米ソデタントにより、戦後のヤルタ体制は崩れ、米ソ両超大国の支配構造も多極化(五極化)の時代に突入、さらに軍事、政治の対立の時代から経済の立て直しと競争、協調の時代に入ったのが1990年代といえる。そして、その序曲としてソ連・東欧と国内の政局で激動が始まり、まさに歴史の大転換が始まりつつあると、みることができるのだ。

21世紀を前にした1989年に、本書では以上のような国際情勢、国内政局の動向を軸に、世界経済と日本経済の行方、今後の企業経営にあたって考えるべきトレンドなども含めて、私なりの分析と予測を記したものである。

※ ブログには89年末に旧ソ連、東欧を2~3週間かけ取材した際の画像が合わせて掲載されています。ご興味をお持ちの方は以下を参照ください。

時代を読む

(TBSラジオ「日本全国8時です」3月28日音源の要約です)

 

嶌信彦この著者の記事一覧

ジャーナリスト。1942年生。慶応大学経済学部卒業後、毎日新聞社入社。大蔵省、日銀、財界、ワシントン特派員等を経て1987年からフリー。TBSテレビ「ブロードキャスター」「NEWS23」「朝ズバッ!」等のコメンテーター、BS-TBS「グローバル・ナビフロント」のキャスターを約15年務め、TBSラジオ「森本毅郎・スタンバイ!」に27年間出演。現在は、TBSラジオ「嶌信彦 人生百景『志の人たち』」出演。近著にウズベキスタン抑留者のナボイ劇場建設秘話を描いたノンフィクション「伝説となった日本兵捕虜-ソ連四大劇場を建てた男たち-」を角川書店より発売。著書多数。NPO「日本ニュース時事能力検定協会」理事、NPO「日本ウズベキスタン協会」 会長。先進国サミットの取材は約30回に及ぶ。

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【著者】 嶌信彦 【発行周期】 ほぼ 平日刊

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