死亡例もあるヒアリ、日本上陸。専門書で知る刺された時の対処法

 

ヒアリ侵略の歴史

ヒアリが南米からアメリカに侵入したのは1930年代と考えられており、それ以降生息域を拡大し続けている。上述のように、ヒアリにとって好適な日当たりの良い開けた環境が多いことも分布域拡大の原因だが、南米に存在していたような天敵がアメリカにいないことも、ヒアリが新天地で繁栄した大きな理由のようだ。

アメリカでは1950年代から1980年代にかけて、総額1億7千万ドルもの巨額の費用をかけて殺蟻剤を散布するなど対策を講じたが、ヒアリを撲滅することはできなかった。この間、有機塩素系農薬の散布による他生物への悪影響も顕在化し、レイチェル・カーソンによる『沈黙の春』に代表される環境保護運動の盛り上がりもおきた。そして残念ながら、人間や生態系に影響のない殺蟻剤の開発もうまくいかなかった。

結局、アメリカでは原産地よりもはるかに高密度のヒアリが生息することとなり、アメリカから他国への侵入と定着を許すまでになってしまった。アメリカ以外にも中国や台湾など日本はヒアリ保有国と活発に貿易をしておりヒアリが知らずに輸入されるリスクに常にさらされている

ヒアリの被害

日本では「殺人アリ」としてヒアリへの恐怖が高まっているように見える。確かに、日本でヒアリが定着可能なエリアは関東以南と幅広く、自宅、路上、公園などの日常生活の場で子どもなどを中心にヒアリの脅威にさらされると予想され、人的被害は無視できない。

ただ、日常的にヒアリに刺されていた台湾出身の知人らは、ヒアリに刺されても死ぬことはまずないので、不快以上の感想はなく、日本の報道は大げさだ、と私に言っていた。これについては、首肯できるところがある。

ヒアリが及ぼす人的被害のリスクをどう見るかは、個々人で異なるだろう。ただ、一つ言えることは、ヒアリの被害は人への影響にとどまらないということだ。

ヒアリは広食性で昆虫などの節足動物の他に植物も食べる。ジャガイモ、トウモロコシの種子、柑橘類の木を食べ、作物への被害は無視できない

さらに、ヒアリは生まれたばかりの脊椎動物を襲う習性があり、ニワトリやウシといった家畜の仔も殺されたり盲目にさせられることがある。これらに対する策にもコストがかかり、畜産業への被害は甚大だ。また、野生の希少種への影響も懸念される。

他にもヒアリにより不動産や観光地の価値が下がったりヒアリが電線をかじるなどして電気系統にダメージが与えられるなど、ヒアリによる被害は広範である。アメリカではヒアリによる経済損失は年間で50〜60億ドルにも及ぶ。ヒアリはただの「不愉快な生きもの」として片付けられないわけだ。

日本のどこかでヒアリがすでにコロニーを作っていたら、我々はなす術がないのだろうか。これについては、ヒアリが侵入してからの経過時間に依存しそうだ。女王アリは新コロニーを創設してから2年ほどは繁殖できる有翅虫を産まないため、それまでに殺蟻剤などを使用して徹底した駆除を行えば、撲滅できる可能性はある。

しかし、有翅虫を生産するようになると、生息域が爆発的に拡大していくので、完全な撲滅は困難になるだろう。

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