死亡例もあるヒアリ、日本上陸。専門書で知る刺された時の対処法

 

ヒアリ対策

ヒアリを定着させないためには、早期の発見と防除が鍵となる。また、定着してしまった場合に備えて、ヒアリ駆逐のための基礎研究をすでに進めておく必要もありそうだ。「倒せない」ヒアリにも天敵が存在し、たとえばノミバエはヒアリに寄生して殺す生態をもつため、生物的防除の手段として研究が進められている。

20170704142931 copy

Image: ヒアリ頭部から羽化するノミバエ. 『ヒアリの生物学』より著者の許可を得て掲載

日本には世界的に見てもアリの専門家の層が厚く、ヒアリの生態を理解し弱点を探るためのプロジェクトを国の支援のもとに立ち上げてもよいだろう。

侵略的外来種として名高いヒアリは、基礎生物学にとって興味深い対象でもある。ヒアリのコロニーには女王アリが1匹しかいない単女王制コロニーと、2匹以上の女王アリが同居する多女王制コロニーがある。面白いことに、単女王制コロニーと多女王制コロニーでは、そこにいるヒアリのGp-9遺伝子の遺伝子型が異なる

Gp-9遺伝子は、ヒアリ体表の匂い物質の合成に関わっていると考えられている。多女王制コロニーに共存している女王どうしの血縁関係はほとんどないため、この遺伝子の「印」だけで同居するかどうかを決めていることになる。例えるなら、血液型が同じというだけで赤の他人の家族と同居し、世話するようなものだ。

このGp-9遺伝子は、ヒアリの体表に「レッテル」を貼ることで、同じ「レッテル」、つまり、同じ遺伝子型をもつヒアリ個体に仲間を受け入れさせて利他行動を促している。結果として、同じ遺伝子型のコピーが増えていくことになる。

これは利己的遺伝子の典型と考えられ、「緑ひげ遺伝子」とよばれる。緑ひげ遺伝子の存在はリチャード・ドーキンスにより1970年代に予言されたが、それが1990年代にヒアリのGp-9遺伝子として実際に発見されたことになる。

このように、ヒアリは社会生物学のモデル生物として、興味深い知見を提供してきた。これから日本でアリ研究者を目指す若い世代にとって、(日本国内で研究するのは難しいかもしれないが)ヒアリは防除研究と行動生態学研究の両方において魅力的な材料に映るのではないだろうか。

最後に

ここに紹介したヒアリの生態は、『ヒアリの生物学』の内容のごく一部であり、さらに詳しい内容を知りたい人はぜひとも本書を手にとってみてほしい。とはいえ、Amazonでは品切れが続いているので、出版社さんにはなんとかして本書を世の中に流通させてほしいものなのだが。

【参考資料】

『ヒアリの生物学』東 正剛、緒方 一夫、S.D. ポーター 著 東 典子 訳

Red imported fire ant: Wikipedia

ヒアリ(Solenopsis invicta)の国内初確認について:環境省

ストップ・ザ・ヒアリ:環境省

ヒアリに関するFAQ

兵庫県内で発見された特定外来生物ヒアリ(Solenopsis invicta)について

小さな侵入者”ヒアリ”を退治せよ!: academist

image by: Insects Unlocked (Creative Commons CC0 1.0 Universal Public Domain Dedication)

堀川大樹『クマムシ博士のむしマガ』

『クマムシ博士のむしマガ』

著者/堀川大樹(クマムシ研究者) メルマガはこちら

北海道大学大学院で博士号を取得後、2008年から2010年までNASAエームズ研究所にてクマムシの宇宙生物学研究に従事。真空でも死なないクマムシの生態を解き明かしたことで、一躍有名研究者に。2011年からはパリ第5大学およびフランス国立衛生医学研究所に所属。著書に『クマムシ博士の「最強生物学」講座』(新潮社)。人気ブログ「むしブロ」では主にライフサイエンスの話題を提供中。

print
いま読まれてます

  • 死亡例もあるヒアリ、日本上陸。専門書で知る刺された時の対処法
    この記事が気に入ったら
    いいね!しよう
    MAG2 NEWSの最新情報をお届け