北朝鮮、目覚めのミサイル発射。今こそ日本は「正気の戦略」を

 

米朝対話は必ず平和協定に行き着く

日経は、米国が自分だけさっさと北朝鮮と妥協して、米本土がICBMで攻撃されないようにして、北がすでに保有している短・中距離ミサイルはそのまま放置し、従って「日本や韓国などアジアへの直接の脅威は置き去りとなる可能性」を心配しているのだが、これは余りに短視的なものの見方である。

第1に、米朝対話はひとたび始まれば、時間はかかっても、必ず38度線の休戦協定を恒久的な平和協定に置き換えて北と米国・韓国との国際法上の戦争状態を正式に解除するところへと行き着かざるを得ない。

その場合に、平和協定交渉の入り口で、「核放棄」ではなく「核(ミサイル開発の現状での)凍結」で構わないという条件が北に与えられることはあり得るし、また平和協定に伴う軍備管理・軍縮協定という出口のところで、一定の条件下で北を核保有国として認めた上で軍縮プロセスを設定するとの合意が盛り込まれることも大いにあり得ることである。

しかし、それは日本が「置き去り」にされるとかいう幼稚なレベルの話ではなく、日本がむしろ積極的に北の核・ミサイル問題の平和的解決を促す外交的努力に力を注ぎ、そのプロセスの達成に関与し貢献していくということでなければならない。

第2に、その時には、北の短・中距離核ミサイルは残るのだろうが、それはすでに国際協約によって一定の制約を受けているため今のように野放しのやりたい放題という訳にはいかず、誤解を恐れずに言えば、現在の中国やロシアの日本に到達可能な核ミサイルが(潜在的には脅威であり続けるけれども)現実的には何の脅威でもないというのと同じ状態になるということである。

第3に、そのように北の核ミサイル問題を長い目で落ち着いて捉えられない人が日本には多くて、この日経記事の筆者もそうだが、その裏には北の歴代指導者を何をしでかすか分からない「狂気の独裁者」と捉える、偏見とは言わないまでも俗論がある。しかし、韓国や中国はもちろん米欧露を含めた世界の戦略分析家や軍事専門家の間では、金正恩は相当程度の変わり者ではあるけれども、決して非理性的(irrational)ではない、という評価が一般的である。

金正恩は風変わりだが狂人ではない

彼はICBMを完成させて米国を核攻撃したい訳ではない。なぜなら、そんなことをすれば米国から100発か1,000発かのミサイルが飛んできて自国が壊滅させられることが分かりきっているからである。そういうことを十分に理解する程度には彼は理性的であり、だから核の先制使用はしないと最初から明言している。

では何のために核ミサイル開発に血道を挙げるのかと言えば、米本土に到達可能なICBMを1発でも保有することが出来れば、少なくとも理論上、米国との間に「核抑止」関係が形成され、米国が北に対して先制的な核を含む軍事攻撃に出ることを躊躇せざるを得なくなるからである。そうなれば、さすがの米国もこれ以上北と軍事的対立を続けることの無意味さを悟って、平和協定交渉とそれに続く朝米国交交渉に応じてくるだろう。だから彼は核開発の目的は平和交渉であると何度も呼びかけているのである。

そうは言っても、韓国や日本を火の海にしてやるとか恐ろしいことをさんざん口にしているじゃないかと言われるかもしれない。しかしあれは、米本土に届くICBMが完成するまでの間は、米国の属国である韓国と日本にある米軍基地を「目の前にある米国」として照準を合わせておくことによる対米抑止の代替的手段であって、韓国や日本それ自体を軍事攻撃するつもりは毛頭ない。なぜなら、それによって北には何ら達成されるべき戦略的目的も経済的利得もなく、失うものばかりだからである。

日経記事が「日本標的のミサイル」などと簡単に書いているが、私の見るところ、北には在日米軍基地を常時標的にしたミサイルはあるに違いないが、日本そのものを標的にしたミサイルはない。そう言うと身も蓋もないが、北朝鮮はそれほど日本に関心がない。日本が狙われていると思うのは思い過ごし、もしくはうぬぼれである。ただ、米軍から先制攻撃を受けて戦争になった場合に、その強力な後方基地となる(ことをかつての朝鮮戦争で身に沁みて知っている)在日米軍基地と、その米軍に従って北への軍事行動に加わるのであれば日本自衛隊基地も、即座に核を含むミサイルで攻撃するだろう。

真っ先に叩かれるのは、在日米軍司令部のある東京・横田空軍基地、厚木の米海軍航空隊基地、米第7艦隊司令部のある横須賀海軍基地で、首都の周りに外国軍の基地を置いている世界唯一の「独立国」であることに甘んじてきた日本の腰抜けぶりが仇となって、3,000万首都圏が壊滅する。北は米本土に対しても在日米軍基地に対しても先制攻撃はしないのだから、米国が北を先制攻撃しないよう制止して、一刻も早く平和交渉の入り口に到達するよう促すことが、日本の安全を確保し首都壊滅を回避する道である。

print
いま読まれてます

  • この記事が気に入ったら
    いいね!しよう
    MAG2 NEWSの最新情報をお届け