「ポジティブ・シンキング」という考え方はビジネス・パーソンの間でも定着していますが、はたして本質まで理解されていると言えるのでしょうか? 今回の無料メルマガ『弁護士谷原誠の【仕事の流儀】』では、著者で現役弁護士の谷原さんが、イソップ童話『すっぱい葡萄』に登場するキツネを例に出しながら、真のポジティブ・シンキングと現状追認の関係性について紹介しています。
ポジティブシンキングの間違い
こんにちは。弁護士の谷原誠です。
私はよく人から「ポジティブ・シンキングですね」といわれることがあります。自分の性格について、あまりその言葉では理解していなかったのですが、人から指摘を受けるうち「確かにそういうところもあるな」と思うようになりました。
例えば、楽しみにしていた2泊3日の旅行があったとします。これが、直前に悪天候を原因に中止になってしまった場合、皆さんはどのように考えるでしょうか?誰しもがっかりするでしょう。「せっかくの計画が無駄になった」と、ぶつけどころのない怒りを感じる人も多いと思います。
私も、もちろん拍子抜けはします。しかし、私の場合、ネガティブな気持ちは一瞬で終わります。そして「3日間、時間が空いたな。何をしようか」と、むしろワクワクします。
弁護士業、その他のビジネスでも、仕事が当初想定した計画通りいくことは少なく、必ずと言って良いほど想定外の問題が発生します。それ自体は困ったことですが、私は、発生した課題の解決策を考えること、また、その状況が新たなチャンスをもたらすのではないかと探ることに、楽しみを見つけるタイプなのです。
ところで、ポジティブ・シンキングという言葉を意識し、その意味するところを考えるようになると、世間でこの言葉で表現されている言動の中に、質が異なるものがあるということにも気づくようになりました。
ポジティブ・シンキングとは、今自分が置かれた状況を肯定的に見る思考ですが、自分の現状を追認するため、他人の状況や自分が選びえたほかの選択肢について、マイナスをあげつらう場合があるように思うのです。
例えていえば、イソップ童話の「すっぱい葡萄」のキツネのような考え方。この物語では、キツネは木の上のぶどうを食べようと手を伸ばすものの、届かず「どうせ、あのブドウはすっぱいんだ」と捨て台詞を吐き、去っていきます。これは、ポジティブ・シンキングではない、と考えています。
先ほどの旅行がダメになった例で、「ああ、良かった。どうせあまり面白そうじゃなかったから、時間が無駄にならずに済んだ」と考えるなら、それは、ポジティブ・シンキングではない、と考えています。
自分の想定していたことがその通りいかなかったとき、前向きに次の行動につなげられるのがポジティブ・シンキングだと思います。自己正当化のために、他を下げる態度では、行動にはつながりません。私は、これはポジティブどころか、ネガティブ・シンキングだと思います。
自分はポジティブ・シンキングである、あるいは、ポジティブ・シンキングを心がけているという方は、その考え方が本当に、悪い状況をプラスの方向に転換できるものであるのか、もう一度考えてみるとよいでしょう。
現状を肯定する理論の中に、知らず知らずのうち、形を変えたネガティブ・シンキングがまぎれこんでいるかもしれません。
今回は、ここまでです。
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