恐ろしい事態。在米作家が語る「自律型ロボット兵器」の危険性

 

その一方で、「それはおかしい」という声もあります。つまり現場で「自分も死の危険を覚悟で」戦っている兵士と比べて「安全なオフィス内のオペレーターにも栄誉を与えるのには反対という声です。また、CIAがこの種の作戦を行うのは超法規的に過ぎるので、軍が主導すべきという議論も出たり入ったりしています。

一番の問題は、人物の誤認が多いことです。無人機で追跡し、人間の体温を赤外線センサーで確認するなど念には念を入れて攻撃してみたら、その「集会」は女性と子どもの集まりであって、テロ容疑者などとは無関係、結果的に無実の市民が6名殺されたというような事例が起きているわけです。こうした事態は、「オペレーター」には耐えられない厳しい状況と言えるでしょう。

そうした「人間が関与することから来る問題」は、自律型のロボット兵器を使うことで、簡単にハードルを乗り越えることができます。全体として軍や諜報機関の高位の人間が「このクラスのテロ容疑者は全員が再犯の恐れがあり、地球上のどの地点であろうと発見次第に超法規的に無力化」という「命令」を入力したら、後は、データ収集に始まって最後の「無力化」までを自律型のハードとソフトで完結させることは可能です。

そうなれば、この種類の「殺し」についてはほとんど人間は「関与しない」つまりは、「手を汚さない」ことが可能になってくるわけです。これは、大変に恐ろしい事態であると思います。

更に危険なのは、自律型のロボット兵器というのは、従来とは全く違った形で人間社会に侵入して、ミッションを完遂することが可能だということです。

例えば、要人暗殺にしても、都市機能の破壊にしても、何食わぬ顔で送りつけたダンボールの中から自律型のロボットがうごめいて、それが時間をかけて何十台も集結して破壊行動を始めるとか、超小型の潜水艦型兵器を河川を遡上させてターゲットに向かわせるとか、様々な形で戦争や陰謀の可能性を拡大することができます

最大の問題は、そうしたロボティクス技術やAIの技術がテロリストや、犯罪国家などにわたることです。自律型ロボットが市民生活の奥深くに潜入して、大規模破壊が可能になるのであれば、自爆テロということはもはや不要になるからです。

では、そのような危険性をどうやって防止するかですが、例えばある程度以上の処理能力を持ったロボティクス用のプロセッサには物理的な仕掛けをしておいて、合法的な「鍵」を使わないと作動しないとか、あるいは一定の基準を越えた「隠密行動」は非合法化し、違反者は国際法廷で戦争犯罪人として処断するとか、様々な知恵を絞っていかなくてはなりません

その一方で、技術の軍事利用を抑制し、民生利用への障害を取り除くということも重要です。軍事技術化したテクノロジーは、機密のベールの中に取り込まれて民生利用が難しくなるからです。また、同時に民生利用を保証したとして、その技術がテロなどの犯罪に利用されないように、登録制などの工夫をすることも必要となります。

また、それ以前の問題として、自律型か遠隔操作型に関わらず、現在、実用化がどんどん進んでいる無人機に関する国際的な規制条約の作成と締結が急がれると思います。

image by: Shutterstock.com

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東京都生まれ。東京大学文学部卒業、コロンビア大学大学院卒。1993年より米国在住。メールマガジンJMM(村上龍編集長)に「FROM911、USAレポート」を寄稿。米国と日本を行き来する冷泉さんだからこその鋭い記事が人気のメルマガは第1~第4火曜日配信。

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