東レ子会社の不正で明るみになった「トクサイ」という闇の商習慣

 

もう一つ、大きな衝撃を受けたのは「トクサイ特別採用)」という問題です。製造の過程で出てくる不良品が、仮に納入先の安全基準内であった場合に、値引きをした上で納入先が「本来は不良品として受け取り拒否をするべきだが、特別に納入を認める」という「商慣習」があったというのです。

THCについては(神戸製鋼も、三菱マテリアルもそのようですが)、この「トクサイ」が納入先に認められることに「味を占めて」しまい、「なあんだ、本来の性能より多少劣化したものでも安全上は問題ないんだ」と勝手に判断し、不良品も「データを偽造してしまえ」という悪質な行為に手を染めて行ったということのようです。

この説明も呆れた話です。データを偽造したことの言い訳としては、ダメダメなレベルである一方で、本当に「トクサイ」という商慣習があったのなら、それも問題です。THCサイドだけでなく、納入先のタイヤメーカーの仕入れ担当」にも不正があったことになるからです。

仮にタイヤメーカー側として「不正ではない」つまり、本来の要求スペックが「セーフティ・マージン」を盛った過剰なものであり、そこから多少劣化した材料を「お得な値段」で「トクサイ」するのは、企業として何ら恥じる必要はない、そう考えている(現在特に申し開きをしていないのですから、そういうことでしょう)のであれば、やはりデータを示して一般ユーザー、つまり開かれた社会へ向けて説明すべきでしょう。

そのデータの説明もしないで、ブリジストンのように「曖昧さを続けるのは難しい。時間をかけて、一番いい解決法を探っていく」とか「厳しい契約社会に移行するきっかけになるのではないか」などと、一見するとカッコいい表現に聞こえるものの、実態はユーザー無視のそれこそ「曖昧な対応」をしているのも問題と思います。

ところで、東レグループの繊維製品は、タイヤコードだけでなく航空機ボディ用の炭素繊維など最先端の製品も含まれています。グローバルな競争に晒されている金属製品よりは、マージンが稼げる構造になっていると思ったのですが、こうした問題が出るということは極めて残念です。

そこには、日本語と日本の商慣習による管理コストが猛烈に重いという問題があると思います。そのシワ寄せが現場を圧迫している、そう考えるべきではないでしょうか。データ不正もブラック雇用もそれが問題の根底にあるのです。

つまり金属という厳しい競争に晒されている業種だけでなく、「日本株式会社のビジネスモデル全体が問われているわけで、この点を直視できないのであれば経済諸団体の存在意義はもう終わりだと思います。今回は経団連会長の出身企業から問題が出たわけですから、いい機会のはずです。

経団連は、各企業がデータ不正をしていないか徹底点検すると言っています。確かに現状では、それも必要でしょう。ですが、問題の根は現場だけではないのです。管理部門のコストが重い生産性が低いということも問題の根にあるのです。その管理部門や、管理部門出身の経営者が「現場のモラルが問題」とか「もっとコンプライアンス意識を」などと説教しているようでは、日本経済の将来はないと思います。

いずれにしても、今回の東レの問題で、日本の製造業の信頼は更に傷がついたのは間違いないと思います。契約を履行する、嘘をつかない、そんな当たり前のことができていないようでは、厳しいグローバルな競争に生き残っていくのは難しいでしょう。

image by: WikimediaCommons(Evelyn-rose)

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東京都生まれ。東京大学文学部卒業、コロンビア大学大学院卒。1993年より米国在住。メールマガジンJMM(村上龍編集長)に「FROM911、USAレポート」を寄稿。米国と日本を行き来する冷泉さんだからこその鋭い記事が人気のメルマガは第1~第4火曜日配信。

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