どうした新幹線。「のぞみ34号」の重大インシデントに残るナゾ

 

ですが、仮にそうだとしてももう一つ大きな疑問が残ります。今回故障したK5編成というのは、落成して就役した際には「N700系」ですが、2013年に改造工事を施されて「N700a」になっています。その改造に当たって、「台車振動検知システム」が装備されているのです。

この検知システムですが、通常の振動と異常な振動を見分けるために、一種のビッグデータ解析のようなことをやってアルゴリズムを決めているそうなのですが、その検知のターゲットはズバリ「モーターの継手軸箱の異常なのです。

詳しく言うと、今回のような油漏れが起きた場合に、潤滑油が異常な高温になると温度センサーが感知するのですが、「温度センサーには引っかからないけれども、振動に異常が出た」場合に、その振動の波形を見て台車についている加速度センサーが警告を出すようになっているわけです。

と言うことは、仮に上記の3つのシナリオの場合、どのパターンであっても「台車振動検知システム」あるいは「車軸の温度センサー」からの警告は出ていた可能性が極めて高いと考えられます。

では、どうして異常を感知してから3時間も運転が継続されたのか、西日本から東海への受け渡しも行われたのかというのは改めて非常な疑問として出てくるわけです。そこで考えられるのは、JRご自慢の「台車振動検知装置」(東芝製と思われます)が故障していた可能性、そして警告は出ていたがそれが無視された可能性です。

N700が「N700a」に進化した、そして既存のN700も全て「A」に改造されたということは大々的にPRされたわけで、その「A」というのは「アドバンスのA」だということになっています。下手をすると、その先進性というのが役に立たなかった可能性があるわけで、とにかくこの点も含めて徹底的な解明が望まれます。

【訂正と追記】
文中で、今回故障を起こした車両には「台車振動検知装置」が搭載されているとしていましたが、その後、2013年前後のJR西日本、JR東海によるプレスリリースなどを確認したところ、「N700」として就役した車両を「A」に改造した際には、「台車振動検知装置」の搭載は見送られていたことが判明しました。

この点を訂正させていただくとともに、今回のインシデントを契機として是非この「Aへの改造」がされた車両にも、「台車振動検知装置」を装備することを強く提言したいと思います。この技術ですが、最も難しい「振動の中から異常を判別する」ためのビッグデータ解析とアルゴリズム作成は「N700A」への装備までに固定投資が完了しているはずで、追加の実装には大きなコストはかからないと思います。是非、実現していただきたいと考えます。

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東京都生まれ。東京大学文学部卒業、コロンビア大学大学院卒。1993年より米国在住。メールマガジンJMM(村上龍編集長)に「FROM911、USAレポート」を寄稿。米国と日本を行き来する冷泉さんだからこその鋭い記事が人気のメルマガは第1~第4火曜日配信。

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