熱中症続出?それでも東京五輪を真夏に開催せざるを得ない「裏事情」

 

欧米スポーツシーズンに遠慮

しかし2020年の東京五輪は真夏の8月に行うことを選択した。なぜ8月を選んだのか、五輪組織委員会がきちんと説明したという記憶はない。ただ巷間ではヨーロッパのサッカーシーズン、アメリカの大リーグ野球の最盛期とぶつかるので日本が欧米の人気スポーツシーズンを避けるよう忖度してずらしたのではないかとみられている。

しかし欧米のプロスポーツのシーズンに遠慮して世界のアマチュアスポーツの祭典・オリンピックの開催日をずらしたとするなら、その不見識は世界から批判されることになるだろう。もし、期間中に熱中症などで選手や観客が数多く倒れたりしたら、それこそ日本のスポーツに対する考え方に対し根本から疑義を持たれるのではないか。

折しも1月4日付けの読売新聞夕刊1面トップ記事で「東京五輪 危ない暑さ」「新国立競技場 熱中症『最悪25日超』」という環境省調査の記事が掲載された。

環境省が競技会場周辺の14ヵ所で、17年7月中旬から9月中旬の約2ヵ月間にわたり熱中症の危険性を示す国際指標の「暑さ指数」を測定した結果、最も高い危険性がある暑さ指数31」のレベルに達した日が新国立競技場など4ヵ所で25日以上あったというのだ。

そのほか危険な暑さ指数が5日以上から19日間あった会場は馬事公苑で19日間、幕張メッセ(レスリング、フェンシング)で14日間、釣ヶ崎海岸(サーフィン)が11日間、など14会場で記録された。なかでも陸上競技を行なう新国立競技場、サッカー・ラグビーを行なう東京スタジアム、ゴルフの霞ヶ関カントリークラブ、サッカーの埼玉スタジアムはいずれも暑さ指数が31以上となる日が25日から27日間あったとしている。まさに暑く蒸し暑い中の東京オリンピックとなる可能性が大きいことがわかったのである。

暑さ指数は気温、湿度、直射日光による熱を基にはじき出す指標。日本体育協会は指数21未満なら「ほぼ安全」、21~25は「注意」、25~28を「警戒」、28~31は「厳重警戒」、31以上を運動は原則中止」と定めている。気温が35度、湿度55%以上だと指標が31になるという。しかもこの規準の危険度はアスリートだけでなく観客や大会関係者、特に日本の高温多湿になれていない外国人、子ども、高齢者にとって危険だと指摘されている。

高い暑さ指数が最も悪影響を及ぼす競技は、陸上競技の花形・マラソンだ。マラソンの世界新記録は2時間2分57秒だから少なくとも2時間以上は厳重警戒以上の暑さの中で走り続けなければならならい過酷なレースになる可能性が強いことがわかったのだ。

また競技時間の長い競歩、激しく動くサッカーなども体力の消耗が大きいので暑さの中での競技は厳しくなるし、場合によっては選手生命を奪いかねないことになる。特に最近の東京は年々夏の暑さが厳しくなっており。2017年の8月上旬は最高気温35度前後の日が1週間以上続いたりした。さらに大敵は湿度。このため涼しい高地でトレーニングをする選手が増えているのだ。

レース中に熱中症選手が続出

それでもレース中に熱中症の症状を起こす選手も増えている。1984年のロサンゼルス五輪女子マラソンでスイスのガブリエラ・アンデルセン選手がフラフラになりながら競技場に戻ってきたシーンは世界の目を釘付けにした。よろけながらゴールに向かうアンデルセン選手に観衆は総立ちになって声援を送り、競技委員は近くに寄って助けようとしたがアンデルセン選手は手助けを拒否し自力でゴールした。同選手は後に「レース直前まで涼しい高地で練習していたため、カリフォルニアのような蒸し暑さに慣れておらず途中で体調がおかしくなってしまった」と述べていた。

このほかにも07年8月の大阪世界陸上や08年8月の北京五輪でも出場者のうち4~5人に1人は途中棄権している。2004年のアテネ五輪はスタート時間を涼しい夕方にし、野口みずき選手はこの大会で金メダルを獲得したがゴール直後に体調をくずした。また、野口選手は2013年8月にモスクワで行なわれた世界陸上に出場したが、熱中症で途中棄権しているのだ。

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