熱中症続出?それでも東京五輪を真夏に開催せざるを得ない「裏事情」

 

IOCが開催日を指定

多くの人が疑問に思うのは「なぜその国で最もよい季節に開催しないのか」という点だろう。実は92年のバルセロナ五輪以降、国際オリンピック委員会(IOC)が五輪に立候補する都市は夏季五輪開催日を7月15日から8月31日までの間に設定することを求めているのだ。本来ならその国の気候を熟知している主催国がオリンピックに最もふさわしい季節、時期を選ぶのが筋にかなっているはずだ。実際92年までの五輪は主催国が最もよい時期を考え抜いて決めていたのである。

それなのにIOCが夏季の開催時期を7月15日~8月31日までと一律に設定してしまった。これはひとえに五輪開催に伴う収入に有利とみたためだ。いわばスポーツのためというよりIOCのカネ儲けに一番都合の良い季節という理由から選んだといいえる。

7月半ば~8月末は欧米で人気スポーツが開催されておらず、テレビ放映に最も都合の良い時期だった。春はアメリカで大リーグ野球が始まるシーズンだし、秋は欧州のサッカーシーズンで、夏は人気のプロスポーツが最も少ない時なのだ。テレビ番組の編成としては欧米の人気スポーツの少ない夏の五輪が最適だった。

2020年の東京五輪について日本のJOCなどは「最高のパフォーマンスをしてもらうため7月24日~8月9日にした」と言っているようだが、日本人なら誰もその言葉を信じないだろう。8月上旬の猛暑日がスポーツにとって最高のパフォーマンスを演ずることができるとはとても思えない

逆に64年の東京五輪の開催日を10月10日とし、その後その日を「体育の日」としたのは日本人が体感的にも納得できたからだ。むろん64年当時とは気候の違いはあるものの、真夏の8月を選ぶとは、欧米のテレビ局に遠慮したためとみられても仕方がないだろう。

ちなみにアメリカのNBCユニバーサルは22年冬季から32年夏季までの6回のオリンピックのアメリカ向け放送権を76億5,000万ドル(約7,800億円)で獲得したといわれるが、もし秋に放送権を獲得しようとすればとてもこの額では収まらず、多くの国はあきらめてしまう可能性が強い。大金を積める国やスポンサー企業がないとオリンピックを招致できないのが現実となっているのである。またIOCは収入の9割を各国のオリンピック委員会や競技団体に還元するので補助金を受け取る側は自国の季節に合わないと反対するケースも少ないという。

8日に始まった平昌オリンピックではそれが如実に競技時間に表れている。例えば、フィギュアスケートは全ての種目の開始が午前10時台で、9日の団体男子ショートプログラムは有力選手の転倒が相次いだ。宇野昌磨選手は「あれだけたくさん失敗するのは初めて見た」と言っている。この時間になったのは、フィギュア人気の高い米国が夜で視聴率が取れる時間に放送を合わせているからだ。

また、ジャンプ男子ノーマルヒルの決勝は10日午後11時15分から始まり、決勝の2回目が終わったのは午前0時過ぎだった。気温は氷点下12度で、視察していた日本政府関係者も耐えきれずに競技終了を待たずに立ち去った。葛西紀明選手は「こんなの中止でしょう、と心の隅でちょっと思った。ジャンプ台の上で寒さに耐えていた」と言っている。これも米国同様にジャンプの人気が高く、自国の選手が活躍する欧州が夕方で視聴率が取れる時間に合わせている。

IOCは「アスリートファースト」を掲げているが、実態は巨額のテレビ放映権料が発生する欧米に合わせ、実態がともなっていない。国際映像を制作して全世界に供給するためIOCが設立した五輪放送サービス(OBS)のディック・パウンド委員長は「競技日程はテレビ視聴者を最大化するためにデザインされている」と言っており、東京オリンピックでも同様の状況になると思われる。

JOCはサッカーなど屋外スポーツの競技開始時間を早朝や夕方にするなどの対応をとるほか、マラソン競技などでは道路に熱を吸収する遮熱舗装など対策を検討中といわれている。しかし、何はともあれアマチュアスポーツ、オリンピックにとって最も良い季節があるのに、欧米のプロスポーツを中継するテレビ局に遠慮してアスリートや観客に過酷な季節を強いることになるのだ。スポーツ本来のあり方に反する選択だという批判が出てくることだろう。

過去の例では7~8月のオリンピックを避け9~10月に実施した例は、シドニーオリンピックであった。選手や観客に迷惑、負担をかけないようもっとも良い季節を選ぶのが主催国の礼儀とアマチュアリズムの精神であり、最高のもてなしとなるのではなかろうか。

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