不安は米朝会談だけじゃない。水面下で進む米中貿易戦争の現実味

 

勝利が簡単な貿易戦争とは

そして、トランプ大統領は、「貿易戦争に勝利することは簡単である」と述べている。この意味は、1980年代の日本との貿易摩擦で勝利した歴史が影響している。米国への巨大な貿易赤字を解消することは、日本との貿易戦争勝利で米国は実績済である。実行あるのみだ。

中国からの一方的な33兆円の米国の貿易赤字であるが、中国は多くの分野の貿易制限やつい最近の韓国に実行した恣意的な貿易差し止めを繰り返している。中国の貿易制限処置や経済統制を失くすことを米国は目指すとするが、実は製品の輸入制限である。特にAIやIOT、IT分野での優位獲得を目指す中国企業の財力を奪う必要がある。

それに対して、中国の李克強首相は、全人代で問題視されている鉄鋼の過剰生産能力の削減や、閉鎖的な金融分野の対外開放も表明し、貿易戦争回避をにじませた。対米貿易摩擦と国内構造改革という内憂外患に対応し“一石二鳥”を狙う作戦のようだ。

関税措置の応酬で貿易戦争に発展すれば、不利なのは中国側だ。中国の対米輸出額に対し、米からの輸入は大幅に小さく、打撃は中国の方が大きい。前年比6.9%増だった昨年の中国の経済成長率は輸出の寄与が大きく、貿易戦争は避けたいのだ。

というような文脈で、トランプ大統領は、「貿易戦争に勝利することは簡単である」としたのである。しかし、計算違いは必ず起きる。そこを直感で切り抜けることができるとトランプ大統領は考えているようだ。ディール好きなトランプ大統領だからできることである。このため、慣行重視の専門家が邪魔なのだ。

金融・株市場関係者は、このようなトランプ政権の政策結果を見通せないことで、株式市場は様子見相場になっている。

もし、株価が大幅に下がったら、トランプ大統領は、パウエルFRB議長に再度量的緩和を行うことを要求する。中間選挙の11月までは、株価を上げる必要があるからだ。

中国の出方は

中国は、2つの道を探り始めている。1つには、中国の内部体制を変革して、貿易摩擦を解消することであり、もう1つが貿易戦争に対応した対抗策を取ることである。

しかし、中国のダメージの方が大きくなることは確実であり、簡単に貿易戦争に打って出ることはできない。WTOへの提訴を行うことが最初の一歩であるが、米国はWTO脱退も考えているようである。WTO自体が中国優位な組織になっていると米国は疑っている。

中国の対抗策は、EUや南米などで米国からの輸入製品に相殺関税を掛けてもらい、米国の製品輸出を背後から叩くことしかないようである。中国への米農産品輸入制限を行う可能性はあるが、米国は、それほど打撃ではない。農産物輸出先は、中国だけではない。

どちらにしても、中国が対応することは難しい。米国製品の輸入制限や米国企業の中国内営業の禁止でも、それほど大きくない。

もう1つ、中国が心配なのが、米国向け輸出分を他に向けるとその地域でも貿易摩擦を引き起こして、貿易制限になることである。

そうなると、中国排除になり、世界に輸出できなくなる

それと、恣意的なドル・人民元相場を統制してきた中国の貿易促進策を否定されると、人民元が高くなり、輸出製品のドル建て価格が上がることになる。こうなると世界的に製品輸出ができなくなる。

よって、中国にとって良いことはないので貿易戦争回避の方向になる。

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