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安倍政権vs愛媛県、「加計学園」ウソをついているのはどっちだ?

様々な疑惑が取り沙汰されながら、今月開校した加計孝太郎氏が理事長を務める岡山理科大学獣医学部。しかしここに来て愛媛県職員の記録文書を朝日新聞がスクープ、これまで安倍首相が繰り返してきた疑惑への「答弁」の信憑性が一気に揺らぐ事態となっています。元全国紙社会部記者の新 恭さんは自身のメルマガ『国家権力&メディア一刀両断』で、それでもごまかしにもならない答弁を繰り返す首相の姿勢に疑問を呈するとともに、愛媛県の文書が事実に反するのならば官邸は県知事に抗議すべきではないかと指摘しています。

「総理のご意向」を推進した官邸、内閣府の経産省トリオ

安倍首相はしょっちゅう加計孝太郎氏とゴルフをしながらも、親友の長年の夢だった獣医学部新設について話をしたことがないと強弁する。

だが、4月10日付朝日新聞、一面トップのスクープ記事に掲載された愛媛県職員の記録文書は、その首相発言が真っ赤な嘘であることを示す動かぬ証拠といえよう。

この文書から、2015年4月、安倍首相の秘書官が、愛媛県、今治市、加計学園の担当者と官邸内で会い、獣医学部新設への道筋を指南していたことが明確にわかる。中村時広・愛媛県知事は、この文書の存在を認めている

安倍首相の“腹心の友”が開設した大学獣医学部。昭恵夫人が深く関わった森友学園の小学校新設計画。政府が特例的に対応したどちらの“事件”にも、安倍首相の意向を汲んで秘書官が動いた形跡がある。

森友学園問題では、昭恵夫人の“秘書役”谷査恵子氏を経産省から送り込んだ政務担当総理秘書官、今井尚哉氏が疑惑解明のカギを握っている。

加計学園についても、政治的判断が必要な案件である以上、今井氏がからんでいるのは間違いないが、オモテに名前が出ているのは2015年当時の事務担当総理秘書官、柳瀬唯夫氏である。

15年4月2日、柳瀬秘書官が加計学園関係者と愛媛県、今治市の担当者を官邸に呼び、何ごとかを話し合ったことは、今治市の出張記録でも明らかだった。週刊朝日は今治市関係者の以下のコメントを伝えていた。

面会の後、今治市では「ついにやった」とお祝いムードでした。普通…国会議員が同行しても、課長にすら会えない。それが「官邸に来てくれ」と言われ、安倍首相の名代である秘書官に会えた。…「絶対に誘致できる」「さすがは加計さんだ、総理にも話ができるんだ』と盛り上がった…」
(週刊朝日2017年8月4日号より)

しかし、当の柳瀬氏は国会で隠し事をするさいの常套句「記憶にないを連発していた。面談での具体的な発言内容も報じられていなかった。それだけに、今回の朝日の記事は衝撃的だった。

中村知事が「備忘録」と呼ぶその記録文書は愛媛県が15年4月2日に柳瀬秘書官と会った後に書き記したものだ。「獣医師養成系大学の設置に係る内閣府藤原次長・柳瀬首相秘書官との面談結果について」とタイトルがつけられている。

文書のうちの、≪柳瀬首相秘書官の主な発言(総理官邸)15:00≫の記述は以下の通りだ。(一部省略)

  • 本件は、首相案件となっており、内閣府藤原次長の公式のヒアリングを受けるという形で進めていただきたい。
  • 国家戦略特区でいくか、構造改革特区でいくかはテクニカルな問題であり、要望が実現するのであればどちらでもいいと思う。現在、国家戦略特区の方が勢いがある。
  • いずれにしても、自治体がやらされモードではなく、死ぬほど実現したいという意識を持つことが最低条件。

明らかに、総理周辺が獣医学部新設を後押しするために、策を授けている構図だ。「首相案件と明確に言っていることにまず驚かされる。「やらされモードではなく、死ぬほど実現したいという意識を」という表現にはズシリとしたリアリティがある。

朝日新聞は続報でこの記録文書の全文を公開した。そこにはさらに驚くべきことが書かれていた。

加計学園から、先日安倍総理と同学園理事長が会食した際に、下村文科大臣が加計学園は課題への回答もなくけしからんといっているとの発言があったとのことであり、その対応策について意見を求めたところ、今後、策定する国家戦略特区の提案書と併せて課題への取り組み状況を整理して、文科省に説明するのがよいとの助言があった。

加計学園の関係者が柳瀬秘書官に質問した内容のようだ。安倍首相と加計理事長が会食したさいに、獣医学部について文科省が求めた課題への回答をしてこないことに下村大臣が不満を持っているという話が出たが、どう対応すればよいかを聞いたところ、丁寧に助言をもらったということだろう。

朝日の報道に対して、当の柳瀬氏(経済産業審議官)は次のような反論コメントを経産省を通じて発表した。

国会でも答弁していますとおり、当時私は、総理秘書官として、日々多くの方々にお会いしていましたが、自分の記憶の限りでは、愛媛県や今治市の方にお会いしたことはありません。(中略)したがって、報道にありますように、私が外部の方に対して、この案件が首相案件になっているといった具体的な話をすることはあり得ません。

これが本当だとすると、愛媛県の文書がデタラメということになる。しかし、愛媛県の担当者には、柳瀬秘書官の名を出してまで作り話を書き残す必要など全くない。柳瀬秘書官との面会により計画が大きく前進したと感じ、ありのままを記録したと考えるのが自然だ。

周知の通り、文科省は獣医師の数が足りているとして獣医学部の新設を認めてこなかった。加計学園の提案を町おこしに活用すべく、愛媛県と今治市は2007年から7年かけて計15回にわたり構造改革特区指定による獣医学部の新設を要望したが叶わなかった

しかし安倍政権が2014年、新たに国家戦略特区を設けたことから状況が好転した。加計氏はこの特区による規制の打破に期待をかけ、2015年から安倍総理周辺と実現への具体的な方法について水面下で打ち合わせをはじめたとみられる。

国家戦略特区諮問会議の議長は安倍首相であり事務局は内閣府だ。柳瀬秘書官に会う前に、愛媛県、今治市の職員らは内閣府の担当者、藤原地方創生推進室次長に会っている。

この官邸での会合から2か月後の6月4日、愛媛県と今治市は共同で国家戦略特区提案を申請した。事業主体となる予定の加計学園が主導しながら提案者に名を連ねなかったのは、おそらく安倍首相との関係を詮索されたくない官邸の指示であろう。

藤原地方創生推進室次長はその後、内閣府審議官に昇格し、引き続き国家戦略特区を担当した。「総理のご意向だ」と、獣医学部新設を渋る文科省に圧力をかけ、開学へのスケジュール作成を促したのは藤原審議官だ。

安倍首相の「ご意向」を伝達するラインがくっきりと見えてこないだろうか。今井首席秘書官、柳瀬秘書官、そして藤原審議官。3人とも東大卒で、経産省からの出向組だ。入省年次は今井氏が1982年、柳瀬氏が1984年、藤原氏が1987年。加計学園に関して今井氏の指令が行き届きやすい布陣だったといえる。

愛媛県の文書には、藤原室長の発言も記録されている。

その主なものは「要請の内容は総理官邸から聞いている」「政府としてきちんと対応していかなければならないと考えている」「国家戦略特区の手法を使って突破口を開きたい」などだ。

官邸と内閣府がタッグを組んで、加計学園の獣医学部新設に力を貸そうとしている雰囲気が伝わってくる。

愛媛県、今治市は官邸で柳瀬氏に会ったと言い、柳瀬氏はそれを否定する。どちらが事実かを11日の衆院予算委員会でで追及された安倍首相は「愛媛県のことをコメントする立場にはない」「柳瀬氏のいうことを信用する」と、ごまかしにもならない答弁を繰り返した。柳瀬氏を信じるのなら、愛媛県知事に抗議するべきではないか。

国民はこの国会模様から、何が事実かをはっきりと見ることができる。ウソを通そうとして墓穴を掘り続ける安倍政権の姿がそこにある。

 

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