エリート自衛官が国会議員を罵倒、文民統制を揺るがす事態

 

翌年早々には制服組の権限をさらに拡大した。有事の作戦計画を策定するプロセスを統合幕僚監部に一元化したのだ。それによって背広組の優位は完全に崩れた

統合幕僚監部は戦前で言えば、大本営の実体である参謀本部軍令部といった存在だ。陸海空自衛隊を一体的に部隊運用するための頭脳集団といえる。

安倍官邸は、2014年7月に集団的自衛権の行使を容認する閣議決定を行なって以来、防衛省内の文官統制を破壊するかのような改変を着々と進めてきた。

その第一弾が、2014年10月14日付で第5代・統合幕僚長に河野克俊海上幕僚長を充てたことだ。

河野統幕長は2014年12月に訪米したさい、安倍政権が躍起になって実現をめざしていた安保法制について来年夏には成立する見込み」とアメリカ陸軍のレイモンド・オディエルノ参謀総長に伝えていたことが後に判明し、国会で問題にされたことがある。

それだけ、安倍官邸とは親密な関係であり、自衛隊法施行令で定める定年年齢(62歳)を超えた今も定年延長でその地位にとどまり続けている

核武装論など極右的な言動で知られる元航空幕僚長、田母神俊雄氏と安倍首相が似通った思想信条の持ち主であることはよく知られている。

かつて田母神氏が村山談話などの政府見解と異なる論文を発表し、それがもとで自衛隊を辞めた後、田母神氏を励ますパーティーに参加した安倍氏は、挨拶でさかんに田母神氏の思想を持ち上げていた。

熱心な日米同盟支持者でありながら、同時に米国が敗戦国・日本に強いた戦後処理に憤慨している安倍首相や田母神氏の考え方に同調する人々が少なからず自衛隊の中にもいるのであろう。

小西議員を「国民の敵」と罵倒した男性は、かねてから河野統合幕僚長に目をかけられていたという。河野統合幕僚長が4月17日、議員会館の小西氏の部屋を訪れて謝罪したというが、本音ではどう思っているかわからない。

海軍の将校が起こした5.15事件の軍法会議は、被告たちの刑が異常に軽かったことで知られている。執行猶予になって訪ねてきた被告の一人に、加藤寛冶という大将が涙ぐんで「君たちはじつに気の毒だった。僕がやらねばならないことを君たちがやってくれた」と話したという。

政治に不満を持って決行したとはいえ、犬養首相を殺害し、政党政治の息の根を止めた大事件である。それについて、海軍大将が共鳴するのだから異常と言うほかない。これ以降、政治や言論活動に対する軍人の暴力が横行し、恐怖時代へと突き進む。

自衛隊員のなかにもさまざまな考えの持ち主がいるだろう。しかし、なにごとも極端主義はいけない。可燃性のイデオロギーは御免こうむる。

ヒゲの隊長こと佐藤正久外務副大臣は、昨年12月5日の参議院外交防衛委員会で「事に臨んでは危険を顧みず、身をもって責務の完遂に務め、もって国民の負託に応える決意であります」と就任のあいさつをした。

自衛官の「服務の宣誓」の一部を引用したものだ。いまや文民である佐藤氏が自衛官のみに課せられた任務への重い覚悟を軽々に述べたことに対し、国会で批判の声が上がった。シビリアンコントロールという意味でも問題だ。

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