エリート自衛官が国会議員を罵倒、文民統制を揺るがす事態

 

この後、男性の口から思いがけない言葉が漏れた。「俺は自衛官だ」。

小西議員は自らが力を入れている政治活動について再度、説明したが、男性は「お前は気持ち悪い」「国民の敵だ」と繰り返す。

一般の人なら国会議員に何を言おうと許されるが、自衛官のこの発言は、自衛隊法など職務上のルールに反する。小西議員は「撤回しないといけない」と男性を諭した。

すると、男性は「国会議員に意見を言って何が悪いんだ」とからんでくる。小西議員はこう言った。

「国会議員を“国民の敵だ”という発言はシビリアンコントロールそのものを否定するものだ。撤回してください」

男性は徐々に小西議員に近づいてきた。小西議員は身構えつつ「撤回」を求めた。そして近くで警備にあたっていた警官に事情を説明し、立ち合ってもらったうえで、「撤回しないのなら、これから防衛省に貴方のルール違反を通報するが、それでもいいか」と尋ねた。

男性が「撤回しない」と答えたので、小西議員は携帯で豊田硬・防衛事務次官に電話し、状況を伝え、「人事担当者に私の電話に連絡するようお願いします」と依頼した。

午後8時55分ごろ、指示を受けた人事局長から電話があった。そのころには男性を取り囲む警官の数が増えてきたため、男性の態度が変わりはじめた。最終的に、男性は「勉強になりました謝罪めいた言葉を口にした。

防衛省の調査で、その男性は統合幕僚監部指揮通信システム部の30代の3等空佐だとわかった。防衛大を卒業し航空自衛隊に入った。3佐といえば、戦前なら少佐である。

小西議員が「5.15事件や2.26事件の青年将校を想起させる」と言うのもうなずける。

それにしても、安保法制に反対する野党議員に憤るこの3等空佐のような自衛官は、統合幕僚監部のなかで特異な存在のだろうか。もしも多数派をなしているとしたら空恐ろしい。

ここ数年で自衛隊の中枢に異変が起こっているのはうすうすわかっていた。2015年6月に安倍政権が法律を改正し、防衛省内における制服組と背広組の関係を変える方向に舵を切ったからだ。

それまでは、「文官統制」の意味から、防衛官僚背広組が自衛官制服組より、どちらかというと優位の立場だった。

自衛隊の最高指揮官はもちろん内閣総理大臣だ。従来だと、制服組は基本計画などに関わっていたものの、防衛大臣を直接補佐することができず、事務次官などの「背広組」が独占的にその任にあたっていた。

だが「国のために命を賭けよ」と説く安倍首相には、憲法で存在が明記されていない自衛官へのシンパシーが強い。日米同盟を強化し共同軍事作戦に従事させるために、制服組を背広組と対等にしなければならないという思いがあった。

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