南北首脳会談の成功を認めぬ、読売新聞「非核化」のカン違い

 

去る4月27日は、東アジアの歴史において「戦後最大の転換点」を迎えた日でした。北朝鮮の金正恩委員長と韓国の文在寅大統領が板門店の軍事境界線を、手繋ぎと笑顔で超えた歴史的瞬間を、世界中の多くの人々が目の当たりにしました。ジャーナリストの高野孟さんは自身のメルマガ『高野孟のTHE JOURNAL』の中で、あの南北首脳会談を高く評価。しかし、日本の一部保守系メディアが目に余る「酷評」の論調で紙面構成していたことに対して批判しています。

※本記事は有料メルマガ『高野孟のTHE JOURNAL』2018年4月30日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会にバックナンバー含め今月分すべて無料のお試し購読をどうぞ。

プロフィール高野孟たかのはじめ
1944年東京生まれ。1968年早稲田大学文学部西洋哲学科卒。通信社、広告会社勤務の後、1975年からフリー・ジャーナリストに。同時に内外政経ニュースレター『インサイダー』の創刊に参加。80年に(株)インサイダーを設立し、代表取締役兼編集長に就任。2002年に早稲田大学客員教授に就任。08年に《THE JOURNAL》に改名し、論説主幹に就任。現在は千葉県鴨川市に在住しながら、半農半ジャーナリストとしてとして活動中。

素直に評価すべき南北首脳会談の成功──余りに酷い日本の保守系メディアの論調

4月27日の南北首脳会談は成功で、3分の2世紀に及んだ朝鮮半島の冷戦構造をいよいよ終結させる端緒を切り開いた。しかし、その結果を報じる28日付『読売新聞』の紙面構成は、ほとんど常軌を逸していて、第1面トップの「板門店宣言具体策なし」の大見出しから始まって、第2面で「拉致、言及なし」、第3面で「南北は融和を優先、非核化を米朝に委ねる」、そして社説では「非核化の道筋はまだ見えない」と、「あれがない、これもない」と言うばかりのほぼ全面的な否定的評価である。

この見出しの立て方に潜む編集意図を推測すれば……、

  1. 北朝鮮は国際社会の制止をかいくぐって核開発に手を染めた極悪非道の犯罪国家なのであるから、こういう国際的な話し合いの場に出て来るのであれば、まず自分から反省し謝罪して、「もうこんなことは致しません」と一方的に核放棄を宣言するのが当たり前なのに、そうしないのはけしからん、
  2. にもかかわらず文在寅大統領は軟弱で、金正恩に対して毅然として立ち向かうことなく、記念植樹などで融和の演出を優先するばかりで、肝心の非核化の具体的な道筋は米朝会談に持ち越された
  3. さらに、日本にとって最大関心事である拉致については、発表では言及されておらず、日本としては文大統領の約束違反ではないかと追及する一方、ますます圧力路線を維持しなければならない、

──ということである。すべて見当が狂っている。

「非核化」はまずは朝米間のテーマ

まずそもそもからして、「非核化」は南北で話し合えば何とかなるような話ではなく、北と米国とが主役として正面切って対峙して解決を図るべきテーマである。韓国がそれと無縁という訳ではないが、その立場は米朝間を取り持つ脇役の域を出ない。だから、非核化の具体化まで文大統領が迫りきらなかったのはだらしないとかいう話ではないし、文大統領がやり切れなかったから米朝会談に「持ち越された」という話でもない。最初から米朝の問題なのである。

こういう錯乱が生じる背景には、本誌が繰り返し指摘してきたことであるけれども、「非核化と言えば「北朝鮮の非核化」すなわち一方的な核放棄のことだと言う初歩的な誤解がある。ところが南北はじめ中国や米国の外交政策エスタブリッシュメントを含めた国際社会の常識は、「朝鮮半島の非核化」であり、その当事者は一に米国二に北三に補助的な位置づけで韓国なのである。

なぜならば、かつて朝鮮戦争の最中の1951年にマッカーサー元帥が戦術核兵器の使用を進言して時のトルーマン大統領から叱責されて解任されて以来、北に対して核を含む戦争発動の脅しをかけ続けて来たのは米国であって、北の金王朝3代にわたる食うや食わずの中での核開発は、それへの対抗策として始まったものだからである。従って、まずは米国と北とがお互いに核を含む軍事恫喝をやめることを約束し合った上で、実際には、3分の2世紀に及ぶこの半島の冷戦構造をネジを1本1本外すように丁寧に解体していくことが必要で、それが非核化」なのである。

そのような観点に立てば、今回の板門店宣言が、3の(4) で「南と北は、完全な非核化を通して核のない朝鮮半島を実現するという共通の目標を確認した」と明記したのは、それが精一杯というか、それで十分な米朝会談への布石であって、その文言が抽象的で具体的な筋道が見えないなどと騒ぐのは丸っきり筋違いである。

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