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平均年収1861万円。ある「BtoB企業」に学ぶニッチ需要の狙い方

徹底的に合理性を重視し、優秀な人材を獲得することで驚異的な業績をあげている企業があります。今回の無料メルマガ『戦略経営の「よもやま話」』では、その企業「キーエンス」の戦略を分析し詳しく紹介しています。

“原理原則”としての戦略

大阪に「キ-エンス」というファクトリー・オートメーション用センサなどをファブレス(工場を持たず)で製造し販売する企業があります。営業利益率55.59%平均年収1,861万円平成17年度という驚異的な業績をあげているのですが、BtoBの企業であるがためあまり知られていません。

会社情報を見ますと、多くの優良企業が明確な「経営理念」を表に出していますが、これほどの会社であるのにそれを表していないのが意外です。社長のメッセージをみると「大切にしていることは、『経営にとって当たり前のことを当たり前に実践する』ということです」とあり、それから「何が当たり前のことなのかを検討・判断する際には、『“原理原則で考える』ということを常に心掛けております」とあります。

事業内容については「FA(ファクトリー・オートメーション)用センサをはじめとする高付加価値製品を通じて、生産現場の生産性・品質向上に貢献して参りました」とあり、続けて「世界初を連発する“企画開発力”と、顧客に密着した“コンサルティングセールス”で、世界の“ものづくり”をサポートして参ります」とあります。

「キ-エンス」の創業者は滝崎武光氏で、2度創業し2度倒産したと言われており、その後1974年に兵庫県尼崎市で「リード電機」を設立しその後「キーエンス」に名称変更して現在に至っています。

ここで「キ-エンス」をあげたのは「戦略の原理原則”」に徹して構想し、その実践においては精緻な活動システムを構築しているからです。ただ、その経営のあり方については徹底的に「合理的」です。主たる「インセンティブ(動機付け)」は「高額な報酬」をもって行っており「人件費は経費ではなく付加価値創造の要素である」としています。

では、そのあり様を「戦略」として考察して行きたいと思います。

<ターゲット>

ターゲットは「ファクトリー・オートメーションをはかろうとするメーカー」で、将来的にも成長し続けるとされる有望な市場であります。

<1.ポジショニング>

「キ-エンス」の「ポジショニング」の取り方は、適切に「活動システム」を構築し強みのある「コア・コンピタンス」を形成して「ニッチすき間市場において最適化および市場独占をはかろうとするものです。「キ-エンス」は実際それを実現しており、しかもその「ニッチ(すき間)市場」は巨大な市場となっており高収益を計上しています。

売り手(顧客)は20万社を数え「世界初の高付加価値製品を連発する」ので魅力的であり、また買い手(外注企業)の多くの技術力のある中小メーカーに大量発注を行うので、ともに“価格交渉力は強くなり、それが55.59%という同社の非常に高い営業利益率をもたらしている要因となっています。

新規参入についてまた企業間競合についても、他企業が追随できない“強み”である最高レベルの「コア・コンピタンス」を最も機能的な「活動システム」でもって創造しておりその地位を脅かされる要因は見受けられません

<2.コア・コンピタンス(核となる技術や特色)>

世界初を連発する“企画開発力”と、顧客に密着した“コンサルティングセールス”が同社の「核となる技術、特色」です。「顧客の欲しいというモノは創らない」と豪語しているように、高頻度の密着した“マーケティング”でもって「顧客担当者以上に現場に精通」し、「欲する」以上の“効用”を「企画開発」されるのが同社の特色ある“強み”です。

<3.活動システム>

世界初を連発する“企画開発力”と、顧客に密着した“コンサルティングセールス”という「キ-エンス」の“強み”ですが、これを“原理原則”を基づいて独自性の高い「活動システム」として構想して構築したのは創業者の滝崎武光氏で、これが「キーエンス」の“好業績”の源泉です。

この「活動システム」構想の基盤要素となるのは2つです。1つは“優秀な人材”です。“優秀な人材”と言ってしまえば簡単なのですが、創業者の滝崎武光氏は経営者の仕事は“優秀な人材”を獲得であるとして、このことに最大のエネルギーを注いでこられたと噂されています。

2つ目はそれらの“優秀な人材”が「世界初を連発する“企画開発力”」となりまた「顧客に密着した“コンサルティングセールス”」となるように、徹底した管理と独自のインセンティブ仕掛け」があります。

ある意味、これこそが“人材”が“純粋効用”として最適に“機能”化する本源的な“マネジメント”手法でありノウハウであると言えそうです。

(1)人材

製造はフェブレス(工場なし)の形態をとり、条件を満たす外部の技術力のあるメーカーを選別して発注しています。

「キーエンス」が“人材”に求めているのは、機能としての「専門能力」です。最も重要視される“人材”は「世界初を連発する企画開発力”」となる研究・開発技術者”で、そしてそれに次ぐのは「顧客に密着したコンサルティングセールス”」を高い目標でクリアーでき成果を実現できる営業担当社員”です。

(2)仕掛け

<研究・開発技術者>

研究・開発技術者に求められるのは、顧客の気付いてすらいない効用をもたらす企画・開発力」で、もちろん何度も営業担当者と同行して顧客の現場に足を運ぶことで実現するのですが。その研究・開発技術者には、年齢・経験にかかわらず意欲と能力があれば積極的に機会を与え、そして“成果があがればそれに連動して評価されて破格の高額報酬が「インセンティブ」として支給されます。

<営業担当社員>

営業担当社員には、顧客の現場情報の収集とそれらにもとづく課題解決のためのコンサルティング提案とその成果としての製品販売が求められます。目標達成のために、情報が提供されるとともにベストプラクティス(最も効率のよい技法、手法)の習得が求められます。

特に特徴的なのは「管理」で、顧客担当者・現場訪問等の接触については、量・質ともに経験豊富なリーダーにより分刻みでチェック」されます。

※ 顧客(現場)への訪問が重視されるのは、コアコンピタンスである“企画開発力”と顧客に密着した“コンサルティングセールス”をなすための絶対条件の活動であるからで、ここを疎かにすると成果は実現されません。

その目標が成果を含め達成されるように、その目標達成度に応じて破格の高額報酬が支給されるのは研究・開発技術者と同じです。それとともに目標達成がなされなければ、報酬を獲得できる機会から疎外されてしまい好条件が得られなくなるようです。

興味深いのは“人材”が求められるのは“スキル”であって、人間関係については何らの干渉もされないようで、至ってドライでいられる環境です。“プロ”として自身を律して適性があれば、それに応じて高報酬が得られるという「合理的」な“場”が提供されていると言えそうです。

image by: Shutterstock.com

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【著者】 浅井良一 【発行周期】 ほぼ週刊

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