2018年6月に内閣が提出した年金改革案が国民の非難に遭い、8月に修正案を提出したプーチン大統領。なぜ今、ロシアは年金改革に踏み切らなければならないのでしょうか。国際関係ジャーナリストでモスクワ在住の北野幸伯さんが、自身の無料メルマガ『ロシア政治経済ジャーナル』に届いた「支持率急落の真相」への質問メールに返答する形で、経済制裁で財政難に陥るロシアの現状等を詳しく解説しています。
プーチン、支持率急落の理由
読者のSさまから、こんなメールをいただきました。
たびたびお忙しい中返信を頂いているSです。最近、虎ノ門ニュースなどでプーチン大統領の支持率が急落しているとの情報が取り沙汰されています。なんでも年金を巡って国民が怒っているらしいです。私は一方的にプーチン大統領を悪者と批判する人は疑ってかかりますが年金となるとそうはいかないような気もします。最近、一番気になる事なので質問させて頂きました。
お答えします。プーチンの支持率が急落しているのは事実です。理由は、Sさまが書いておられるとおり、「年金改革」です。
ロシアの年金改革
もう少し詳しくお話しましょう。
6月16日、メドベージェフ内閣は、「年金改革」に関する法案を、下院に提出しました。内容は、
- 年金受給開始年齢を引き上げる
- 男性は、現在の60歳から、65歳へ
- 女性は、現在の55歳から、63歳へ
です。これを受けて、ロシア全土で、大規模な反政府デモが起こりました。そして、プーチンの支持率が急落したのです。プーチンの支持率は、14年のクリミア併合後、80%台を保ってきた。しかし、制裁疲れから60%台まで下がってきていた。これが、年金改革法案が提出されると、48%まで下がったのです。
なぜ年金改革が必要なのでしょうか? ロシア政府は、いろいろいっていますが、結局「制裁で財政が苦しい」ということでしょう。GDP成長率を見てみましょう。
- 2010年:4.5%
- 2011年:5.07%
- 2012年:3.7%
- 2013年:1.8%
毎年平均7%成長していた2000年~08年の勢いはありません。しかし、プラスを保っています。そして、運命の2014年(クリミア併合)がやってきました。日欧米が、対ロ制裁を発動します。結果、
- 2014年:0.7%
- 2015年:-2.5%
- 2016年:-0.2%
- 2017年:1.55%
- 2018年:1.71%(IMFによる予測)
こうみると、「2017年から+に転じているよね」と思うでしょう? そうなのですが、これ、要するに「原油価格が上がったから」なのです。しかも原油価格がバレル30ドル台から60ドル台まで倍増して、「1%台しか成長しない」状況。それで、ロシア政府は、「年金改革しないと、財政持たない」と判断したのでしょう。