実は、フランスでは2000年代から職場のモラハラを原因とする自殺が頻発していました。
その引き金のひとつとされているのが、1990年代に左派政権によって導入された「週35時間労働制」です。
労働時間の規制の主たる目的は「雇用の維持と失業者対策」。
政府の目論見通り、2000年~2002年にフランス全土で実施された大規模調査では、5割が「職場の人員が増えた」とし、6割超が「生活の質が向上した」と回答(失業率の改善には好景気が影響した、という意見も多い)。
ところが、その一方で、4割が「業務の負担が増えた」とし、そのうちの6割超の労働者が、「ストレスが増加した」と回答しました。
いかなる法案も使い方次第で負の側面が出るものですが、皮肉にも労働時間短縮規制を徹底したことで、「コスト命」の愚弄な経営者が仕事量は従来どおりで労働時間だけを短縮し、賃金を抑制。その結果、職場の人間関係が悪化し、上司からの攻撃や暴力など、「モラハラ」が爆発的に増加したのです。
その先陣をきったのが、自動車メーカー「ルノー」。2007年に、4カ月間に3人が自殺。カルロス・ゴーン氏が、ルノー本体のCEOに復帰した時期と重なることから、「ゴーンは、日本の『過労自殺』という経営手法までフランスに持ち帰ったのか」とフランス国内で揶揄されました。
実際ゴーン氏の要求は高く、自殺者が残したメモには「会社が求める仕事のペースに耐えられない」と書かれ、夫を失った妻は「毎晩、書類を自宅に持ち帰り、夜中も仕事をしていた」とサービス残業が常態化していたと告白するなど、ゴーン氏の経営手法は問題視されました。
また、2008年にはフランスの銀行で働く12人の従業員が自殺。2009年にはフランス最大手の電話会社「フランス・テレコム」で、わずか1年8カ月の間に24人もの社員が「自殺」するという、衝撃的な事件もありました。
結局のところ、“コストカット”による企業再生は、現場の犠牲の上に成立するという、やりきれないリアルが存在します。
リストラされた人はもちろんのこと、カネだけを追いかけるトップが作った劣悪な職場風土につぶされるのです。
image by: shutterstock
※本記事は有料メルマガ『デキる男は尻がイイ-河合薫の『社会の窓』』2018年11月21日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会にバックナンバー含め初月無料のお試し購読をどうぞ。
こちらも必読! 月単位で購入できるバックナンバー
※初月無料の定期購読手続きを完了後、各月バックナンバーをお求めください。
2018年10月分
- 求む!「つながらない権利」/オレにも言わせろ! ほか(10/31)
- トランスジェンダーは認めない?/「唸った」(7) ほか(10/24)
- 2浪は現役より劣る?/「唸った」(6) ほか(10/17)
- 「就職一括採用」という病/「唸った」(5) ほか(10/10)
- 葉っぱの落書きとノーベル賞/「唸った」(4) ほか(10/3)
※1ヶ月分540円(税込)で購入できます。
※『デキる男は尻がイイ-河合薫の『社会の窓』』(2018年11月21日号)より一部抜粋