さて、今回は日本ではなくフランスの「モラハラ」について、少しお話をします。「モラハラ」とは、モラル・ハラスメント。日本でいうところのパワハラです。
フランスで「モラハラ」という言葉が一般化したのは、日本と同じ1990年代後半に遡ります。
きっかけは精神科医のマリー・F・イルゴイエンヌの著書、『Le Harcelement Moral: La violence perverse au quotidien(邦題『モラルハラスメント・人を傷つけずにはいられない』)』が大ベストセラーになったことでした。
それまで多くの人たちが、「職場のいじめや暴力」を経験したり、目撃していたのですが、その“問題”を“問題にする”ための言葉が存在しませんでした。
そこで、イルゴイエンヌ氏はもともと夫婦間の精神的暴力を示す言葉だった「モラハラ」を、職場で日常的に行われているイジメに引用したのです。
さらに、イリゴイエンヌ氏はいくつもの事例を被害者目線でとりあげ、「企業経営がモラハラを助長している」との見解を示し、批判は「個人」ではなく「組織」に向けられるべきであるとしました。
その結果、1999年には国会で法案が提案され、2002年1月17日職場でのモラルハラスメントに言及した「社会近代化法」(労働法)が制定されたのです。
従業員は、権利と尊厳を侵害する可能性のある、身体的・精神的健康を悪化させるような労働条件の悪化をまねく、あるいはそれを悪化をさせることを目的とする繰り返しの行為に苦しむべきではない。雇用者には予防義務があり、従業員の身体的・精神的健康を守り、安全を保障するために必要な対策をとらなければならず、また、モラルハラスメント予防について必要な対策を講じなければならない。
(労働法より引用)
つまり、個人の問題ではなく組織の問題として、企業にパワハラ=モラハラに関する予防・禁止措置を課しました。
1冊の本が法案提出につながるとは、さすがフランスです。というか、むしろそれほどまでに、フランスの多くの職場でモラハラに苦しんでいる人が存在した証なのでしょう。