交渉のプロが憂慮。パリ協定ルール合意もチャンス生かせない日本

 

ただ、各国の削減目標の見直し(それまでの削減努力と経済発展を比較して新たな削減目標を定めるプロセス)の頻度については、5年ごとを主張する欧州と10年ごとが妥当とする途上国の対立が解けず、結論は先送りになっています。

また、他国で行った排出削減へのアシスタンスを、どのように自国の削減量としてカウントするか、そしてそれを認めるか否かという議論(一般には市場メカニズムの利用による排出枠の取引)も結論が出ず、先送りになっています。

一様に、各国交渉官からは「パリ協定の精神は守られた」という評価がされ“成功”との空気が流れていますが、実際のところどうだったのでしょうか?

私も、今年もいつものごとく交渉に携わっていたのであれば、疲労感と達成感から何となく“成功”との評価をしたのかもしれませんが、落ち着いてみてみると、2020年からパリ協定を世界的に実施するための“最低ライン”をギリギリ超えたレベルの合意であったのではないかと思います。

地球の破滅を招くパリ協定実施のとん挫。しかし世界は…

ルールブックの“骨組み”が出来たことで、細則はon-goingで交渉しつつ、パリ協定に基づく作業を始めることはできますが、細則(細かい実施規定)を迅速に明らかにしないと、実施が滞ることになりますし、また先延ばしされた「排出削減量の見直し」の頻度とプロセスを決めない限りは、パリ協定の実施もすぐにとん挫する恐れがあります。

仮にそのような状況に陥った場合、危機的な状況(point of no return)までギリギリのタイミングとされる気候変動対策の柱が失われ、今年IPCCやUNEP、そしてアメリカ政府のチーフサイエンティストたちが世界に示した2100年までに、産業革命時の全球平均気温に比して3度から6度の温度上昇を招くという破壊的なシナリオが現実化してきます。

また、私も関わるFuture Conferenceでのシナリオも示すように、このままのトレンドが続き、世界各国が協力して温室効果ガスの大幅な削減に取り組まない限り、早ければ2030年(これから12年後─そう次の戌年)には、“もう一つ地球が必要になる”という恐れもあります。

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