存在感をなくした日本交渉団と日本の産業界
ただ、私がいろいろな方面から聞いてとても残念だったのが、日本交渉団の存在感のなさの指摘でした。福島第一原子力発電所の事故以降の苦しいエネルギーの供給繰りという状況もあり、石炭火力発電回帰を余儀なくされたのですが、パリ協定発効後、どんどん石炭への風当たりが強くなり、各国は再生可能エネルギーシフトを鮮明にしました。
ノルウェー政府年金基金やバークレイズ銀行などの大型投資ファンドなどが相次いで「石炭火力発電に関わる企業への投資を引き上げる」という決定をし、メジャー石油会社も軒並み再生可能エネルギーへの転換を図る中、日本のメガバンクは相変わらず石炭火力発電関連への投資を止められず、大手商社も軒並み石炭のポートフォリオを切れずにいることから、一気に風当たりが強くなりました。
また政府の政策も、石炭に拘るという決定も、石炭を止めて再生可能エネルギーシフトを本格化するという決定も、原子力の将来があいまいにされている中、はっきりとした方向性がなく、それが見事に交渉の現場での立ち回りが出来なくなるという悪循環を生んでいます。技術や資金という分野、そして科学的な知見では、これまで日本の存在は重く見られていたのですが(私もそう努力してきましたが)、COP24の交渉では、「え、日本いたの?ところで何か発言したっけ?」という印象だったと聞きます。
そして産業界も一応サイドイベントなどを開催したそうですが、メガバンクの存在感はなく、また産業界からのお話もあまりインパクトはなかった、というのがどうも反応であったようです。
今後、気候変動対策を加速する中で日本の持つ技術力と知見は不可欠なのですが、プレゼンテーション不足ゆえに、またチャンスをどこかに攫われてしまいそうです。
パリ協定の実施の土台はできました。ただ、まだまだ不安定な、そして先が見えづらい土台であることも事実です。今後、そう遠くない時期に表出してくる多くの悲劇の連鎖、特に異常気象がもたらす災害とコストが予想される中、そろそろ各国の狭いエゴやプライドの張り合いに終始する交渉スタイルから、いかに協調して、地球規模の問題に同じ方向を向いて取り組むのか。
答えを出し、手を取り合って行動に移すまでの時間は、もうあまり長く残されていません。2020年にパリ協定が本格稼働するまでには、今年のCOP24で合意できなかった諸々の実施ルールが合意に至ることを切に願いますし、私もまた、再度、交渉に携わりたいと思います。
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