交渉のプロが憂慮。パリ協定ルール合意もチャンス生かせない日本

 

「科学的な進歩で、もう一つの地球も可能になる」といった議論や、「技術革新で大気中の温暖化効果ガスを吸い取ることも可能ではないか」という議論も聞かれ、そのオプティミスティックな雰囲気に流されてみたくもなりますが、「急激な変化を受け入れる代わりに、私たちは何を手放す用意があるのか」についても真剣に考えなくてはならなくなります。Panacea(特効薬)は存在せず、私たちが自分事として地道に取り組むほかありません。

しかし、今回、COP24をめぐる国際情勢は、そのようなurgencyに応え得るようなfriendlyな状況ではありませんでした。例えば、パリ協定のレガシーを強固なものにするために国内におけるエネルギー税率を上げようと目論んだマクロン政権に対し、黄色いベスト(Gillet Jaune)運動がNOを突きつけ、マクロン大統領は税率を上げるというオプションを再度延期して隠すほかありませんでしたが、それでもまだ状況は収まらずデモは継続しています。

そのような中、本来、パリ協定のルールブックをかなり厳格な内容にしたかったフランスの交渉団も、国内のいざこざに邪魔されて明確な方向性を示すことが出来ませんでした。環境先進国スイスも議会が、政権がパリ協定実施に向けて用意していた環境法改正案を否決し、交渉にネガティブなメッセージを投げてしまいましたし、ドイツの石炭連盟も「いつ石炭を止めるのか」という計画に合意できなかったため、脱石炭+再生可能エネルギーの拡大を押したかった欧州交渉団の足を引っ張りました。

そこに追い打ちをかけたのが、以前もお話したトランプ政権のG20サミットでの再度のNO(パリ協定に対し)と、ブラジルのボルソナロ新政権が匂わせた「パリ協定からの離脱」という政治的な赤信号は、交渉に暗雲をもたらしてしまいました。

「交渉でambitiousな内容を合意しても、“我が国政府は実施に協力的か?”」「新政権の打ち出す方向性が見えないが、“どこまで交渉していいのか?”」そのような不確定要素が多かった中、パリ協定の実施を確実にするには不十分だと思われる内容でも、交渉団たちはよくやったとは思います。

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