なぜ世界の自殺者数減少に比べて日本の減少率は緩やかなのか?

 

自殺を減らす他の要因

自殺報道の自粛に加えて、女性の自由開放とアルコールの制限政策は自殺予防に効果があることがわかりました。また、自殺が減ってきている原因はこれら以外にもあります。発展途上国では、パラコートなどの致死的な農薬の使用を禁止することも効果的です。また、アスピリンやアセトアミノフェンなどの容量依存で致死的となる薬物の最大処方量の制限も有効です。

緩和ケアとプライマリケアの充実も重要です。疼痛コントロールを十分に行うことで、慢性疼痛やがん疼痛での自殺を防ぐことにつながります。

ただし医療用麻薬の使い方には注意を要します。麻薬による薬物過量使用による死亡の多いアメリカでは、多くの州で薬剤師がナロクソン(麻薬拮抗薬)を自由に処方できるルールを導入していますが、処方率が不十分なため、今ではナロクソンをOTC薬として人々が自由に購入できるようにするルールさえ導入しようとしています。しかし、アメリカのもう一つの課題は銃規制ですね。これができないとアメリカだけ取り残されることもあり得ます。

世界最大の自殺者数を出していたロシアと韓国の自殺者数はここ数年で激減しています。一方、3位の日本では減少はしてはいるもののその傾向はかなり緩やかです。また、日本では年間約15万人もの変死者が出ています。世界保健機関の推奨では、変死者数のうちの約半数は自殺によるものであり、統計上は自殺者数にこの数も含めるべきとしています。そうすると年間自殺者数は約3倍となり、これは先進国の中で圧倒的に多い数となります。

プライマリケアで充実すべきものには、うつ病の診断と治療が効果があります。医療現場の前線で観察活動を展開している私は、日本の医療現場ではうつ病患者を過小診断しているとみています。そのために十分な治療を受けていない状況です。かかりつけ医のあり方など、プライマリケアの質が問われています。

文献:IHME. Gender differentials and state variations in suicide deaths in India: the Global Burden of Disease Study 1990-2016

image by: andriano.cz, shutterstock.com

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